サトウさん×はなちゃん


「いらっしゃいませー!」


私の働いている花屋は、今日は大忙し。
今日は桃の節句…雛祭り。
この日、お店では桃の花が売られる日。
桃の節句に合わせたそれは毎年好評で、
会社帰りのお父さんやお買い物途中のお母さんが、
可愛い娘さんのために1枝お土産に買って帰る。
だから今日は、いつもと比べるとずっと忙しい。

でも、娘さんの喜ぶ顔を思い浮かべながら
うきうきした表情で一礼するお父さん達を見ていると
私もつられて嬉しくなってしまう。

だからこの日はとても楽しい。

…佐藤さんもいつか、誰かとの間に産まれた子のために
お雛様を飾る日が来るのかしら?

それが私だったら…良いな……なんてね。


「ね、ししゃもちゃん?」

「うなー」


小さな鉢の中に落ち着いている、佐藤さんの飼い猫のししゃもちゃん。
この子が私の呼びかけに反応して、一つ鳴いた。
きっと意味なんて分かってないけど、ししゃもちゃんは猫ちゃんだものね。


「佐藤さん、早く帰ってくると良いね」

「うなー」


ししゃもちゃんはまた一つ鳴いて、
それから傾きだした太陽をじっと見つめていた。



「佐藤お疲れ、今日はもう上がりだ」

「はい、お先に失礼します!」


上司の言葉にそう返事をし、一礼してオフィスのドアを開けた。

ここ最近はあまり忙しくなくて、はなちゃんとししゃもの所に
すぐに帰れる日が続いている。

今日も太陽が傾いて、東の空が少し暗くなりだした頃にバスに乗った。
この時間は、はなちゃんも閉店の準備で頑張ってる頃かな。
ししゃもと僕とはなちゃん、皆で帰る時間が一番楽しい。
早く二人の顔が見たいな、そう思っているうちにバスが着いた。


「わーい!おひなさまー!」


道を歩いていると、小さな女の子とお母さんが
ケーキの箱を抱えて歩いているのに出会った。

そう言えば今日は桃の節句だっけ。
女の子の幸せをお祈りするっていう雛祭りをする。
…はなちゃんに雛祭りのケーキ、買ってあげようか。

「もうそんな年じゃないです!」
って怒られちゃうかな。


そう考えつつも僕の足は、ひなケーキの看板が立てられた
小さいケーキ屋さんへと向かっていた。



「ありがとうございましたー!」


最後の桃の花が売れて、少し遅れた閉店の準備。
大分暗くなった辺りを見回して、ガレージを閉めた。

「ししゃもちゃん、ちょっと待っててね」

「なー」


ししゃもちゃんを待たせておいて、鍵を店の裏手にある
店長さんの家に返した。

そうした後にししゃもちゃんの所に戻ると…


「佐藤さん!」

「お疲れ様、はなちゃん」


穏やかに微笑む佐藤さんが、ししゃもちゃんを肩に乗せて
店の前に立っていた。


「あ さ 佐藤さんこそ…お 疲 れ 様…です」


何だか突然照れくさくなってしまって、ゴニョゴニョとどもってしまった。
意味もなく顔が火照る。


佐藤さんはというと、ふふっと笑って
鞄を持っていた手とは逆に有る、小さな袋を私の前で揺らした。

なんだろう、これは……?



夕焼けみたいに頬を紅くしたはなちゃんは、
目の前の袋を不思議そうに見つめている。


「えっと…あの、これは?」

「雛祭りのケーキだよ」


ああ、なるほど…
そう呟いた後、少し考えた顔をして


「私、もうそんなに子供じゃないです」


予想していた言葉とほぼ同じ答えが返ってきた。
ちょっとむくれた顔が余計におかしくて、思わずふき出してしまった。


「もう!からかわないで下さい!」

「ごめんごめん…ほら、これあげるから許して?」


ケーキを渡すと、少しだけご機嫌が治った感じ。


「お雛様は早くしまわないと嫁入りが遅れちゃうんだって。
だから早く食べないとね」

「これ、二つ有りますね。
うーん、全部食べたら太っちゃうかな…?」

「じゃあ二人で一個ずつ食べる?」

「二人、で?」

「うん、僕の家で食べようよ。
…どう?」


はなちゃんは、無言で小さく頷いた。
さっきよりもずっと、ずっと真っ赤になってるのが
暗くなった今でもよく分かる。
いかにも湯気が出そうって感じだけど…
…僕も同じような顔をしてるんだろう。顔がすごく熱い。


特別、変な意味で言ったわけじゃなかったんだけど……
この先は僕等次第、かな。



「じ じゃあ、帰ろうか?」

「は はい!そうですね!」




二人して、ひどくギクシャクした帰り道。
鼓動が、はなちゃんにまで聞こえてるんじゃないかってくらい
体中に響き渡っている。
こんなにドキドキしたのは、ずいぶん久しぶり……



「うにゃぁーん」


沈みかけた太陽の光だけが照らす、微かに明るい帰り道。
僕等の間のししゃもだけが、いつもと変わらない
大きなあくびをした。

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