ソラ×ショウコ


チリチリと熱を帯びて痛む指に、更なる熱が加えられる。
「いっ―――…!」と、思わず悲鳴を上げて仰け反ったのはほんの一瞬で、
次の瞬間、僕は目の前に広がる光景に息も言葉も飲み込んで固まってしまった。
さらり、と僕のものではない長い髪が僕の腕に垂れ下がる。
その髪から漂ってくるラベンダーの香りがまた蠱惑的で、
頭の芯がクラクラとした。一体全体、僕に何が起きているのだろう。

「ショ、ショウコ………ちゃん?」
「…………………」


………状況を整理しよう。

何時、何処で、何がどうなっているのかを自分自身に問い質してみる。
いつ、というと昼下がり。まだ夕方には早い時間で、
カーテンの外には多分冬の青空が広がっている筈だ。
どこで、というと僕の家。何分、男の一人暮らしなものだから、
狭い部屋には畳まれていない洗濯物だの特売のカップ麺だの、
そんな生活臭溢れる代物があちらこちらに散乱している。
とてもじゃないけれど、女の子を上げるような家じゃない…のに、
上げちゃったんだよなあ、これが。これが全ての間違いだったのかも知れない。

「………えっと、何…してるの」
「…………………」

相変わらず、彼女は答えてくれない。


思考回路をフル回転させている間にも、火傷した指を覆う温もりは変わらなくて、
寧ろ、纏わり付く柔らかな感触に背筋がゾクゾクとしてくる。…こんなにも、
僕は動揺しているというのに、彼女は黙って僕の指を咥え続けている。
そう、何がどうなって―――という話だ。趣味で作っていた
ミニプラネタリウムを見せたくて、つい、ショウコちゃんを家に呼んだ。
そして、電球に星の数だけ穴の開いたカサを被せようとして………
電球に直に触れてしまった。当然、火傷した。痛みに絶叫しつつも、
早く冷やさなければと氷を取りに行こうとしたその腕を、

「あのー………ショウコちゃん」

彼女が引き止めた。と思ったら、即座に火傷した指を咥えられて、

「…………………」

現在に至る。こういうわけだ。筋道立てて考えれば混乱する程のことじゃない………

「ショウコさーん………」

わけがない。…全く何の反応も返さない彼女の顔を、覗き込む。

「…………………」

覗き込んですぐ、僕は滅茶苦茶に後悔した。

普段と何ら変わりない無表情で、けれどその小さな唇に自分の指を咥え込んで、
ゆっくりとじっとりと指の腹を舐める姿がこれ程までに扇情的だとは、思わなかった。
ただでさえ、生温かい舌の先が指紋をなぞる度に動悸が走って仕方がないのに、
僕の指、ただ一点を見詰めて沈黙し、犬や猫の如くぺろぺろとそれを舐めた挙句、
時折こくん、と細い喉を嚥下させる様といったら、卑猥以外の何物でもない。

正直、今すぐ泣いて逃げ出したい位だ。


「ス、ス、ストップ!ストップ、ショウコちゃんっ!」

何を言っても行為を止めようとしない彼女を力ずくで引き剥がして、
一つ大きな深呼吸をする。無理矢理その口から引き摺り出した際に、
指を噛まれてしまったけれど、そういう痛みとか、僕を見詰める凍て付く視線とか、
別の刺激がないと駄目だ。そうでもしないと―――…興奮が治まらない。
理性が保たない。何か間違いを犯しかねない。ああ、僕やっぱり男なんだなあ。

「…何をそんなに慌てているの」


………そんな感慨は置いといて。

煽られた性欲を必死で抑え込んでいる僕とは対照的なまでの冷静さで、
彼女はそう問い掛けてくる。…親の心子知らず、って言葉はあるけど、
男の心女知らず、なんて言葉はないんだろうか。慌てるに決まってるじゃないか。
こんな唐突に可愛い女の子に性感帯を擽られるだなんて。あ、言葉にするともっと卑しい。
寧ろ、顧みた現実が厭らし過ぎる。何てことをしてくれたんだろうか、彼女は。

ばくばくと今にも破裂しそうな胸を押さえて、コホンとわざとらしい咳払いをした。


*****



「………いい? ショウコちゃん?」

落ち着け、僕。彼女に悟られないように、それでいて彼女に諭さないと…

「こういうことは…彼氏でもない男にしちゃ、駄目だよ」
「どうして?」
「いや、君にとってはただの応急手当なのかも知れないけれど…その」

こんなことを軽々しく、他の男にやられたら困る。僕だから良かったものの…
ということにしておきたい…他の男だったら即襲われかねないよ、本当に。

「やられてる側はものすごーく緊張するんだよね。…寿命が縮まりそうなぐらい」
「…つまり、ソラ君は興奮しているの?」
「そうそ…じゃなくて、緊張、だって言ったよね? な、んでそこで興奮って言葉が出」

言葉の先は、ヒヤリとした手の感触で遮られた。
あんなにも温かかった舌とは打って変わって、氷のように冷たい手が、
服越しに僕の胸に当てられている。そこでようやく、彼女の鉄面皮が解けた。
「…本当みたいね」と、悪戯っぽく笑うショウコちゃんは、僕の知る彼女じゃない。
早鐘を打つ心臓の音を聴いた彼女の微笑みは、天使とも悪魔とも見えた。
………そういえば、女は魔性のイキモノだって誰かが言ってたような気がする。

「大丈夫よ、心配してくれなくても。…ソラ君以外にはしないから」

鮮やかに笑みを刻んだ唇は半月の輪郭。

「そもそも………その気のない男の人の家に上がり込むだなんて、
そんな無防備なことはしないわよ。私は」

クスクスと、涼やかな笑い声は星のささめきの如く僕を魅了する。


「………それで、この後はどうするの?」

そこで、白魚の指を僕の脚の間に差し入れるのは最早反則だ。

ああ本当に、一体全体どういうわけなんだろうか。妖艶に微笑む彼女は、幻か。
折角、パーカーの裾を引っ張ってまで押し隠した衝動を暴かれて、
僕はただ、ただ嘆息する。吐き出した息が、とてつもなく熱い。
…これが夢か幻の類だったら、この熱の所為にしよう。
後々、間違ったと思ったらその時に後悔してしまおう。うん、そうだ。それでいい。

「……………電気、消して。…星が、見えるから」


偽物の星でも願いは叶えてくれるんだろうか。
きらきらと輝く満天の星空の下で、僕はそっと想い人の肩に手を掛けた。

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