サトウさん×はなちゃん


時計の針は、夜の7時を指している。
待ち合わせの時間。
それなのに私が一人で此処にいるのは、
あの人はまだ職場に居るから。

少し前、私が待ち合わせ場所に着いてからすぐに一本の電話。


「…もしもし、佐藤さん?」

「もしもし…はなちゃん?ごめん、今日も残業みたいで
待ち合わせに遅れるんだ…大丈夫?」

「はい。」


そう、答えた。

私は知っていた。
彼は今日この日のために、年末恒例である
膨大な量の仕事を必死で片そうとしていた事を。
だからここ最近、ずっと残業をこなしていた事を。

それは私のためだって事を知っているから、
彼は私のために頑張ってくれているんだから…

だから私は怒らなかった。
仕事を終えて、此処に来てくれるのを待つ事にした。


「私は大丈夫ですよ。
お仕事、頑張って下さい」

「うん、本当ごめんね…
できるだけ早く片付けてくるから」


電話を切った。
きっと電話の向こうで彼は、ペコペコと頭を下げているのだろう。

公園の片隅で、私は彼の帰りを待つ。
遠目には幸せそうな男女の行進、今夜は止む事もきっとない。

今だけ、一人ぼっち。
空は淀み、地面は連日の雪で凍り、吐く息は白い。

それでも…貴方を待っていますから…
安心して下さい、佐藤さん。






「…終わった……」


あの子に遅刻の電話を入れてから、
時は既に一時間以上経ってしまっている。

今日中に、どうしてもやらなきゃならない仕事。
それを片付けるために僕は残業。

…今日だけはしたくなかったのに。
今日この日のために、君のために、
僕は今日まで頑張ってきた。
なのに、それも水泡。
この寒空の下、君を待たせる羽目になってしまった。

急いで帰りの支度をし、鞄をひっつかんでオフィスを抜ける。


「お疲れ様でした!」


守衛さんも驚く程の速さで門を飛び出し、僕はバス停へと走った。

急いた証の荒い吐息は、まるで汽車のよう。


もっと早く。もっと速く。


ちょうど良く停まっていたヒゲランド交通のバスに、勢い良く飛び乗った。
そしてバスは直ぐに出発した。

これを降りれば、君は近い。
ごめんね…待っててね、はなちゃん。

空いた席には腰を降ろさず、
出口に近い吊革に身を預け僕は呼吸を整えた。







時計の針が9時を指した。

公園に飾られた大きなクリスマスツリー、
そこから可愛らしいジングルベルが鳴り響いた。
ツリーが美しくライトアップされて、
周りの恋人達から感嘆の溜め息。


本当に綺麗。
早く貴方とこれを見たい。

私、いつまで待てば良いのかしら?

ちくり。
冷たい棘が心に刺さる。
この雪と同じように
時が経てば経つほどに降り積もる、不安。


「早く来て……」


ツリーにぽつりと呟いた言葉。
本当にサンタクロースが居るならば、
今すぐ彼を此処に連れてきて。
私に彼をプレゼントして下さい。



シャンシャンシャン



微かに鳴った、鈴の音。
恋人達は、全く気が付かない様子で。
でも私には確かに聞こえた。

低い声―「Merry Christmas」
…そして確かに見えたの。
星屑を撒きながら空を走るソリが。

目をこすり、もう一度空を見上げた。
けれどそこにはもう何も無く、
雪の降りしきる暗い空だけが有って。


何なのかしら…


…それは私の願い通り、サンタクロースからの
クリスマスプレゼントだった。




「はなちゃん!!」





走って走って、たどり着いた待ち合わせ場所。

彼女は綺麗なツリーを見上げていた。
この寒空の下、一人ぼっちで。

それでも僕を待っててくれていた。
それが僕は嬉しかった。
それと同時に、君を待たせてしまった事が
ものすごく悔やまれた。


僕は荒い呼吸を、少し整えた。


「はなちゃん!!」


愛しい君の名前を呼んだ。


「佐藤さん…!」


声の主を目に認めた君は、満面の笑みで
心を返してくれた。

走り寄って、すぐさまに君を抱きしめる。
氷のように冷たくなり、小さく震える体。
とても長い間待たせてしまった事が、よく分かった。


「ごめんね…」


―言いたい事は沢山有るはずなのに、
やっとの事で絞り出した言葉は
たったのこれだけだった。

…どうして、これだけしか言えないのだろう。
もどかしい思いで、ただ君を暖める。


そんな時だった。
君の手が、躊躇いがちに僕の背中に回されたのは。
そして優しい微笑みを向けて、僕に
「おかえりなさい」
と言ってくれたのは……。

貴方の存在をを認めた時、私を抱きしめてくれた時に
不安は一気に吹き飛んでしまった。

サンタクロースは本当に居たんだ、私にプレゼントをくれたんだ。
と思う私は調子良いヤツだな…なんて思ったけれど。


でも、私を抱きしめてくれた時の貴方の顔…
「ごめんね」と言った顔が、とても悲しそうだった。
仕事で私を待たせてしまった事が、彼の心を苛んでいるのだろう。
そんな貴方の顔を見るのは、とても辛い。

恐る恐る、彼の背中に手を回す。
そして私の気持ちを、言葉に変えて送った。


「おかえりなさい」


貴方の腕に一層の力がこもる。
少し苦しいくらいまで、私の体を包んでくれた。

優しいキス。
唇から伝わる貴方の温もり。
心の底から安心できた。

唇を離した時の私は、一体どんな顔をしていたろう?


「ただいま…」


少なくとも貴方には、いつもの優しい笑顔が戻っていた。






必死に走ってきた僕の体温と、ひたすらに僕を待っていた
君の体温が溶け合うまで、僕はずっと体を離さなかった。


「佐藤さん」


背中に手を回したまま、君は僕を呼んだ。
指差した先の、クリスマスツリー。


「綺麗ですね、ツリー」


美しく輝いているツリー。
彼等の光を反射し、雪は光の結晶となって舞い降りる。
そして辺りには、静かに流れるジングルベルのオルゴール。

この世のものとは思えない幻想的な光景に
僕等は少しの間、見入っていた。


「…じゃあ、行こうか?」

「はい」


手を繋ぎ、二人で歩いた真白い道。
何となく立ち止まり、夜空を仰ぐと
星屑を撒きながら空を走っていくソリが見えた。



「はなちゃん」

「はい?」

「この年でサンタを信じてるなんて…変かな?」

「いいえ。私も、信じてますよ。
今夜はプレゼントをもらいました」

「そっか…僕もプレゼントもらおうかな」

「何をもらうんですか?」

「ええとね……」







僕等の、永遠の幸せを。


..Merry Christmas....

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