一京VS淀川ジョルカエフ


風もない、静寂に包まれた夜だった。
木々の葉擦れの音さえなく――まるで彼らも眠りにつ就いているかの様に。
その中で一人の男が、まるで眠りに就いた木々に溶け込むかの如く、禅を組んでいた。
『のう、儂、退屈しとるんだが』
いや、独りではなかった。
姿はそれとは見えぬものの、彼に語りかける者が居た。
『暇だから歌っても良いか?こう見えて儂ぁ唄が上手いぞ』
「……」
問い掛ける声にもしかし、彼は答えようとはしなかった。
『その気になりゃぁ「びじゅある」でもお披露目してやっても良いぞ』
「…いえ」
それまで口を閉ざしていた男が、不意に何かの気配を察したかの様にその身を緊張させた。
「びじゅあるはまた次の機会に。…来ました」
『そうかい。頃合になったら儂が出るからの。それまで永らえよ』
「承知致しました」
何やら物騒な言葉を残し、姿無き声は去ったようだ。
そして代わりに現れたものは…。
いや、そこに姿は見えはしなかった。
ただ彼は「視」た。
成人男子を遥かに上回る巨躯の持ち主を。
目には映らぬものの、確かにその存在はそこに居たのであった。

「待たれよ」
彼の呼びかけに、「それ」は反応を示した。
「この先に用がおありなれば、ここで時間を潰して頂きたく願う。…淀川殿」
「おやおやぁ」
淀川と呼ばれた「それ」は、徐に興味を示した様だ。
「私めの姿がお見えになるのでしょぉうか?」
彼と淀川の距離は約10間。
未だ互いの間合いからは遠かった。

「淀川ジョルカエフ、そなたが送られた文はここにある」
そう言うと、彼は僧衣の懐から書状らしき物を垣間見せ、再び仕舞った。
「できれば時間を潰すまでもなく、お引取り願いたい」
「これはこれは、異なことを申される。どうして、私めが、獲物を前に尻尾を巻いて逃げ出すような真似を?」
そう言いつつも、半ば愉しげに哂う淀川。
哂いつつ。
次第にその姿が朧げながらも露になってきた。
霧のような蒸気に塗れ、巨躯はより鮮明に夜の闇に浮かび上がったのである。
それは、まさに異形であった。
身の丈、7尺ほどもあろうかというその身を着飾るは、紳士服。
禍々しい邪気を放ちつつ、目の前の男を威嚇せんとばかりに不気味な笑みを浮かべる。
「成る程、物の怪とは異なる存在よ」
対して、彼は動じず。
その目を細め、手にした琵琶を一つ、鳴らした。
「止むを得まい。この身を以って行く手を遮らせて頂く」
「小坊主風情が」
淀川は、ふっと鼻で笑い、
「私をどうにかできるとお思いか?はぁぁぁ、嘆かわしいことで御座いますなぁ」
額を押さえ、首を振る淀川。

その隙を突き、彼は駆け、手にした物を振りぬき、そして走り抜けた。

「…おやぁ?」
淀川がふと袖口を見遣ると、そこは薄く、しかし確かに裂けていた。
「日々の鍛錬で鍛えられし撥は、真剣さながらの切れ味を発揮する」
彼は振り返り、再び異形と対峙した。
「不肖一京、参る」

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