ロケット86×ニコラシカ


「…お前」

 大きな爆発音を聞きつけて、何事かと降り立った荒野には見慣れた情景が並んでいて、俺は呆れた。
 見慣れる、と云うのもまた難儀な話だが。

「ア、86 ダ。久シブリ」

 機械特有の無機質な、しかしどこか親しみにある音が響く。
 トーンは女性のそれに設定された、「声」だ。
 しかしその声も今はどこかノイズ混じりだった。無理もない話だと思う。

「久しぶり、じゃねえだろ。何やってんだそんなとこで」

 俺は声の発生源へと近づいて、しゃがみ込んでそれを拾う。
 それは人の生首、を模した機械の身体だった。しかしカラーリングは人のそれとは全く違っているのは、それになりきる必要はないからだ。
 何せ、それは元兵器だった代物なのだから。

「アノネ、不発弾ヲ、ネ、見ツケタノ」

「おう」

 俺はそれ――ニコラシカに所々こびり付いた煤を指で拭いつつ、爆風で歪んでしまった、人の髪型(いわゆるツインテール、と呼ばれるそれだ)を模した鉄板を曲げなおそうとしてみる。
 しかし案の定固くて、人の力では無理だった。
 わかりきった話だが、また溶接からやらないといけない。難儀だ。

「見ツケテ、解除シヨウトシタノハイインダケド」

「ヘマしたのか」

「ウン」

 悪びれもせず答えるのは、そこまでのプログラムが搭載されてないからだろうか。
 ニコラシカの、ちかちかと点滅する紫の瞳の向こうでどんな計算が行われているかなど俺には知る余地もないが、なんとなくそんなことを思う。
 「ニコラシカ」と云う存在の元を生み出した人物に関して、ニコラシカ本人は「今ハ遠イ東ノ島国ニ居ルンダッテ」と云っていた。
 会ってみたいか、と問うと、「…ワカンナイ」とだけ、答えた。
 しかし実際問題としてニコラシカの祖国の戦争は終わってる訳だし、俺は部外者だし、知る道理も無いわけだから、まあ、

 今は今で良いか

 とは、思い込めないままで今に至っている。
 らしくない話だというのは、解ってるつもりだが。

 俺は誰に向けたわけでも無い溜め息を一つ付くと、爆風であちこちに散らばったニコラシカのパーツの中から、リサイクルできそうな物を拾い集めてゆく。
 これもまた、お決まりの作業と云えた。殆ど行事に近いかもしれない。

「…お前な、あんま無理すんなよ」

「…」

「俺がたまたま通りかかって、俺が直してやれる壊れ方してるからまだいいけどな。そうじゃなかったらどうすんだよ」

「…」

 思えばこんな変な関係、地球上にこれくらいなものかもしれない。
 勝手に無茶して勝手に壊れてる変人(いや、ロボットだが)をこんな労力かけて直してるなんて、つくづくお人よしだ。
 集めきったパーツを纏めて風呂敷(こんなもん常備するようになったのもコイツに遭ってからだ)で包んでやる。パーツの山の頂点にニコラシカの頭を置いて、頭の頂点あたりで風呂敷の端を結んで持てる形にした。
 ロケットを背負ったあたりで、呟くような声が聴こえた。

「…86ハ、ヤサシイネ」

「優しかねえよ」

 ぶっきらぼうに返す。
 そうだ、優しくなんかない。



 ただの、お人好しだよ。

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