夢幻ノ光


 ふわ、と涼風が吹く。
 その風は、旅人の黒いマントと束ねた長髪をなびかせて、
すっかり高くなった空の彼方へと駆け上がっていった。
旅人はゆっくりと歩きながら、過ぎ去った風を見送り、
それからまた前方へ視線を戻した。
(…おや、)
 ふと道の脇に目をやると、いささか寒いながらも、
精一杯背伸びしている一輪の紫色の花に気が付いた。
(桔梗の花か)
 そう思うのとほぼ同時に、再び追い風が優しく吹き、
花が頷くように揺れた。

『桔梗の花には、誠実、と言う花言葉があるのですって。
あの方が私に教えて下さいました…』
 摘み取った桔梗の花を愛でながら、
嬉しそうに自分に話しかけている少女の姿がフラッシュバックする。
最後の戦で我が主と最愛の親友を失った後の出来事だった、
と旅人は追憶する。
 大切な人を失い、重傷を負っていた自分を助け、
その少女は慣れないながらも介抱を施してくれた。
困った人は放っておけず、
最後までその人に尽くさなければ気が済まない性分なのだと話す彼女を見て、
自分も人の為になろうと決心したものだった。
今の自分があるのも、全ては8年前に出会ったあの少女のお陰だった。

(久々にあの方に会ってみようか)
 少女がいた京の都も近い事だ。会ってみるのも悪くないだろう。
8年振りなのだから、自分の名を申したところでは分からないだろうな、
と苦笑しつつ少し歩調を速める。
会ってみようと言う気持ちも、『会いたい』と言う気持ちに変化していた。
(ああ、一刻でも早く会いたい)
 健気に咲いていた先刻の花と同じ名を持つあの人に会いたい。
 記憶の中でなく、自分の目の前で微笑んで欲しい。
(桔梗、殿)
 旅人――最上流石は、三度笠越しにまだ見えぬ京の都を望み、歩を進めていた。

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