六×ムラサキ


ムラサキ姐さん――――。

あの人と出会ってかなりの年月が経つ。
出会った場所は、東京の歌舞伎町。
幼馴染の一京の元を離れ、放浪の旅に出た二日目のことだった。

「行くアテが無いなら、あたしの家に好きなだけ泊まってきなよ」

そうやって声を掛けてくれた女こそが姐さんだった。
その言葉に甘えて、俺は暫くそこにいる事にした。

それから三ヶ月経ち、俺はまた旅に出ると言って、姐さんに別れを告げた。

「またいつでも戻ってきなよ、待ってるから」

そう言って、姐さんは、俺をいつもと変わらない笑顔で見送った。
俺は、少しその笑顔に違和感を感じながら、去った。


そして、数ヵ月後――――。
収録が終わり、収録スタジオの中の部屋で皆でゆっくりしている時だった。
「さーて、12回目の収録も終わったことだし、皆で打ち上げパーティー兼慰安旅行にでも行かねぇか?」
そんな神――MZDの一言に、一同は顔はMZDの方向で、動きが止まっている。
「どうしたの神!?熱でもあるんじゃないの?」
「あ、ミミちゃん分かった!きっとサイバー君にいいひと光線銃浴びせられたんじゃあ・・・」
「おいミミ、ニャミ!失礼なこと言うな!」
慣れないMZDの一言に司会者2人は動揺して、MZDにとって失礼な言葉を発している。
MZDは折角誘ってやってんのにとボヤいている。

――――実は俺も「何か悪いもの食ったんじゃあ」とか思ったのは内緒だが。

「こーなったら有無を言わさず全員強制参加だ!!逃げたら殺す!」
というか、ココにいる全員断る理由無いと思いますよ、神。
泳人なんか目ェキラキラしてるし。
スマイルに至っては何か企み笑いしてるし。
「ところで、一体どこにパーティーと慰安旅行に行くんです?」
「それはなー、秘密だよ!」
「えー、それは無いんじゃないのか?」
「言ったら楽しみが無くなっちまうだろ?」
若とハジメの言葉をあっさり一蹴し、MZDは台の上に飛び乗った。
「集合は明日の朝10時!場所は羽田空港だ!皆、遅れんなよ!!」
そう言って、MZDは光と共に弾けた。

翌日、俺達は大阪への飛行機に乗り、バスで京都に向かった。
バスの運転手はもちろん、MZDだ。
「そういえば昨日MZD殿は教えてくれませんでしたが、京都だったんですか」
「ああ!それも、祇園だぜ!」
「おお、祇園ですか」
若がMZDに話し掛け、MZDが嬉しそうに答える。
そういえば姐さんは、「祇園でロッキン芸妓になる!」とか言ってたっけな。

――――姐さん、元気にしてるだろうか。
ちゃんと寝てるのかな・・・?芸妓の勉強してるかな・・・

・・・あれ?何で俺姐さんのこと考えてるんだ?
しかも何か顔が熱い・・・。何でだ?

「六さん、熱でもあるんですか?顔赤いですよ?」
隣の席の桔梗が、顔を覗き込んで聞いてくる。
「あ、ああ・・・そうかもしれない。でも、大丈夫だ」
「そうですか?さっきから何か様子がおかしかったので・・・・」
「平気だ。心配するな」


ヤベェ、俺、一体どうしたんだろう。


そんな気持ちを抱えて、夜。
旅館の宴会会場で俺達は夕飯を食べようとしていた時だった。
「うっわ、こんな豪華な京料理、生まれて初めてだ!」
泳人が嬉しそうに目の前の料理を眺めながら言った。
「こんないい物食べちゃってもいいんですか?」
さらさがニコニコしながら問う。
「ああ、遠慮しないでどんどん食いな!・・・とその前に!」
「?」
皆視線をMZDに向ける。
「今日、この日のためのスペシャルゲストがいるんだよなー」
「え、それって誰なの?」
「・・・」
フロウフロウとおんなのこが興味津々な顔で聞く。
「ま、それは見てのお楽しみだ!じゃあ、出てきてくれ!」
MZDの声で、前の舞台の幕が上がり、その中から出てきたのは・・・。

「――姐さん・・・!」
俺は思わず小声で呟いた。
姐さんは全員を一瞥し、艶っぽく微笑んでお辞儀をした。
「皆さん、始めましての人も久しぶりの人もこんばんは。 本日は、わざわざ京都までお越しいただき有難うございます。
さて、今日は打ち上げパーティー兼慰安旅行と言うことで、私、ムラサキがこの場を盛り上げていきたいと思います。」
丁寧で艶やかな口調で挨拶し、MZDに視線が注がれる。
「そういうこった。皆、めいっぱい楽しめよ!」
MZDがそう言った瞬間、俺達の打ち上げパーティーが始まった。

姐さんは、舞台の上で自分の持ち歌を歌っていた。
濃厚で艶のある声、ギターの弦を爪弾く指、動くたびにさらさらと流れるたっぷりとした黒髪、そして―――――

・・・って、俺一体何考えてるんだよ!?
桔梗の言うとおり、俺、今日はどうかしてる。
気が付けば姐さんのことばっかり考えてるし、考えてる時には顔が熱くなるし。さっきだって・・・


姐さんの胸元に、自然に目が行ってた。


これじゃあ俺は只の変態じゃないか!
そんな、何ヶ月か前まで世話になってた人をそういう目で見るとか・・・
修行が足りねえ!
ああ、こんな所を一京や十兵衛に見られたら、からかわれること間違い無しだ。
「カタブツ侍はムッツリスケベだった〜!」とか。
はあ・・・本当に、これからどうやって姐さんと接すればいいんだ?

食事が終わって部屋に入っても、ずっとその事ばっかり考えていた。
幸い、俺の部屋は一人部屋だった。
二人部屋だったら、今の俺だったら考え事も出来ない。
そして、何よりも今の俺では相部屋になった奴は居心地が悪いと思うし。
俺は、丁寧に敷かれた布団の上に横たわった。
ふと、時計を見ると11時。まだ外からは蛙の鳴き声が聞こえる。

「本当に・・・どうすっかな・・・・」

そう呟いた瞬間、俺の部屋の引き戸を叩く音が聞こえた。
俺は少しイラッとしたが、出ないわけにはいかないから出ることにした。
ガラッと引き戸を開けると、姐さんが居た。
「!姐さん!!」「しーっ!」
俺は驚いて思わず大声を出してしまい、姐さんは紅い口紅が塗られている唇に指を当てた。
「どうして此処が分かったんだ?」
「MZDに聞いたんだよ」
立ち話も悪いから、俺はとりあえず姐さんを部屋に入れた。
座布団を出すのも面倒臭いから、布団の上に二人で座る。

「ところで、何で此処に?」
「ちょっとね、アンタと話したいと思ってさ」
そう言いながら、姐さんは空を見る。
空には満月と、無数の星が輝いていた。
「久しぶりだねぇ、アンタとこうやって一緒に月見るの」
「―――ああ」
そう言って、二人でずっと月を眺めていた。
蛙は未だ鳴き止まない。
「――姐さん」
「その呼び方、未だ直ってないんだね」
「いや、だって・・・・」
そう、俺は世話になっていた当時からずっと「姐さん」と呼んでいた。
いつも「姐さん」って呼ぶ度に、「ムラサキでいいよ」と言われていたのだが、慣れなかった。
「アンタはいつもそう呼んでたよね・・・、まあ、アタシも「アンタ」としか呼んでなかった気がするけどさ」
そう言って姐さんは首を傾けてクスリと笑う。

正直、ドキッとした。
数ヶ月前とは違う、艶っぽさの増した笑みだと思った。

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