第2話


「…」

 しょぼん、とうなだれるフューを前にして俺は言葉に詰まる。
 そのフューの隣に居るミミさんとニャミさんのいう事を全て鵜呑みにするならば、

「…フューにある事ない事吹き込んだのはあの神で」
「うん」
「フューはその神にすっかり騙されて」
「そうそう」
「………ああしたと」
「そのとーり!さっすがー、物分りいいね!」
「ミミちゃん!」
「本当なのか?」
「…………ごめんなさい…」
「まあフューちゃんも反省してる事だし今回は許してあげてよ!」
「神はウチらでシメといたからさ。最近奥さんと険悪らしくて〜、欲求不満らしいしー」
「ニャミちゃん!」
「あはは、ごめんごめん。でもこれでどっちもどっちだね。ウチらもこれで終わり!」
「もー」
「じゃあ失礼するよ!紅茶美味しかったよ、また今度淹れてねっ」
「お邪魔しましたー!」

 ばたんとドアが閉まる。
 2人残された部屋の空気はこれまでに感じた事がないくらい重かった。
 何も言い出せずに向かい合っていると、ついに痺れを切らしたのかフューが口を開いた。

「Dはフューちゃんのこと嫌いになった?」
「あ?」
「…だって怒ってるし……その…あんなこと無理やり…」
「あの時は俺だってそんなこと知らなかったし、過ぎたモンは仕方ないだろ?」
「だけど」
「でもな、フュー」
「何?」
「…お前、本当に俺が好きか?」
「どーゆーこと?」

 不思議そうな目で見つめてくる。
 俺はそれを見て、小さくため息をついた。
 そして、

「憧れと勘違いしてないか?」

 そう言った。

 よくある事だった。
 自分で言うのも何だが、その場の空気で告白してくる女は多かった。
 大体、そんな女は数日経てばけろりとその事を忘れてしまうものだ。

 もしかしたらフューは「憧れ」と「好き」を勘違いしている可能性がある。
 そう思って俺は、冷たいとは思ったが言葉を口にした。

「?」
「お前のその気持ちが、」
「うん」
「【人間】と言う物に対しての憧れじゃないかと言ってるんだ」
「―――」

 【信じられない】。
 緑色の目はそう言いたげだったが俺は気にせず続けた。

「いいか?お前はまだこっちの事をよく分かってないと思う。
 それはお前が未来人だからとか、そんなのじゃない。
 もっと根本的な事だ。お前は確かに今人間だが、それは本当じゃないだろ?」
「…よくわかんない」
「じゃあはっきり言うぞ」


「俺とお前じゃ全然違うんだよ」


 また、長い沈黙。
 フューは時々ちらりとこちらを見てきたがすぐに顔を伏せてしまう。
 俺はそれでも気にせずにフューを見ていた。

 何か言いたげそうに、口を少し開いては閉じる。
 それを繰り返していたがしばらくしてフューから言葉を発した。

「やっぱりDはフューちゃんが嫌いなんだよね」
「…」
「そうだよね、あんな事された人にいまさらすきだなんていわれても嫌だよね」

「Dがいやがることしてごめんなさい」

「だけどもしっていてください」

「すきだとかあこがれとかのさかいめなんて結局は誰かが決めたことだっていうことだけ」

 そこまで言ってフューは立ち上がった。
 ふらふらとした足取りでドアを開ける。

「おい!どこへ……」
「帰るよ、神様におねがいして。そのほうがDにもいいんでしょ?
 フューちゃんはDがだいすきだから、あったかい気持ちになってもらいたいんだよ」
「俺はそういう意味で言ったんじゃ…」
「じゃーねー、バイバーイ」
「ちょっ…」

 ばたん。

 ドアは静かで、それでいてどこか重く音を響かせて閉まった。
 俺は呆然と、その場から動けずに座り込んでいた。

 そう言う意味で言ったんじゃない。

 その後に何を続けようと思ったのか。
 「フューと自分は違うから好きになれない」と言う意味しかなかった。

 らしくない。
 普段だったらこれで済んだ。
 なのにどうしてこんなにも、自分でさえ、面倒な――…

「くそっ…」

 俺は髪の毛を近くにあったゴムで1つにまとめ、適当な物を着て外に飛び出す。
 フューの足ではそう遠くには行けないはずだ。

 まだ近くに居る。
 大丈夫。
 やり直せる。


 しかし事は思惑通りには運ばないものだ。
 行きそうな場所を全て探してみたがどこにも居ない。
 もう神の家に着いたのだろうか――そういえば俺は神の家を知らないなぁ…。

「…」

 俺はたどり着いた公園のベンチに座って頭を抱えた。
 神の家はこの近くにはないはずだ(俺が見かけたことがないから)
 だが会ってどうする。
 今更弁解するなんてばかばかしい。

 ―――もしかしたら、あの時のフューの言葉に過剰反応したのは――――

 いやそんなことはない。
 ただ自分の言い分を誤解したまま別れたくはないだけだ。
 頭を左右にぶんぶんと振ってその考えを飛ばそうとするがなかなか離れなかった。

「…ああもう…」
「おい」
「とりあえず次はあそこを探して……」
「おい」
「………」
「おい!」
「うるせぇ黙れ!俺は今イライラしてんだ!」

 大声を上げて一発殴ってやろうと振り向き、胸倉を掴むと相手はことの元凶。
 そいつは少し気に食わない、と言う顔をして俺の頭を撫でる。

「そんな大声出すなよー。ここ公園だぞ」
「元凶が何言ってんだか。何の用だ。つか手どけろ」
「フューなら俺の家に居るぞ」
「知ってるよ!だけどお前の家を俺は知らないんだ!」
「まあまあ落ち着きなされよ、そのフュー本人は今ここに居るんだが」
「はあ?」
「おいで」

 元凶が手招きすると公園の入り口にある塀の影からフューが出てくる。
 フューはもじもじと後ろで手を落ち着き無く動かしていた。

「ったく…どこに行ってたんだ、心配しただろ」
「だ、だって…だって〜〜〜〜〜〜〜!」

 俺の顔を見るなり泣き出すもんだから慌ててぐしぐしと頭を撫でる。
 それでもびーびーとフューは泣き続けていた。

「かっ、かみっ、神様の家にい、行ったら、謝ら、あや、あらやまないといけなっ、って。
 でもっ、ふ、フューちゃ、D、怒らせちゃ、ちゃったから、会えない、ないって。
 そしたらっ、かみさ、神様がっ、俺もっ、も、着いてくから、へ、平気だって!
 だからフューちゃん来たの〜〜〜〜〜!ごめんなさいぃ〜〜〜〜〜!!!」
「ちょ、俺が変な目で見られるから泣きやめ!」
「おこんないで〜〜〜!ごめんなさいぃ〜〜〜!!」
「わかったから!俺は怒ってないし、お前を嫌いになろうとも思ってない!」
「ほ、ほんっ、ホント?」
「そこまで器のちいせぇ男じゃねーし。反省してるならそれ以上怒らねぇよ」
「うっ、ぇっ、うあー……Dィィイ〜〜〜!!」
「あーはいはい、よしよし」

 仕方なく抱き込んで背中をぽんぽんと叩く。
 それを見てにやにやと笑う元凶をげんなりとした顔で見るとそいつは

「じゃあ俺邪魔みたいだから行くわ」
「もう来るな!俺の前に姿見せたら次こそ容赦しねぇぞ!」
「お〜怖い怖い」

 パチンと音を立てて消えてしまった。
 残された俺とフューはどうしたらいいものか、ととりあえずフューをなだめながら考える。
 その内落ち着いたらしく、フューは俺を見上げてきた。

「ねぇ!でもフューちゃん、まだD好きだよ!Dは?!」

 そう聞かれて一瞬答えようか迷う。
 でもこの一連の出来事で、俺がこいつを意識してるのは明確だった。

「……嫌いじゃないぞ」
「ほ、ホント?あんな嫌なことしたのに?」
「俺だってよくわかんねぇよ……」
「……ねぇ、お家にまだ居ていーい?」
「行くトコねぇんだろ」
「ほんと!?」
「嘘も糞もあるか。男に二言はねぇ」
「じゃあ一緒に帰る?!」
「はいはい」
「じゃあ手ぇ繋いで帰ろ!」
「ええ面倒くさい…」
「いーじゃん、いーじゃん!お手手繋いでラブラブだよ〜!」
「ラブラブって……」

 ぐいぐいと楽しそうな表情で俺の腕を引っ張るフューに苦笑する。
 惚れた弱みとはよく言ったもんだ。

「しゃあねぇなぁ」

 たとえ相手がどんなだとしても、
 俺がこいつ自身を好きになったことに変わりは無い。
 だからせめて今だけでもこんな時間が続くことを柄にもなく願うことにする―――……



「…そういえば」
「なぁに?」
「お前って俺のどこがいいの?」
「んっと目隠ししてるところとか目隠ししてるところとか!」
「……そんだけ?」
「え、あ、後ね、髪が綺麗なトコー」
「………まあいいか」

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