ソラ×リエちゃん


「お兄さん!」

後ろから突然声がして、俺の視界に栗色の長い髪の毛が垂れ下がってきた。
僕はゆっくり顔を上げる。そうしたところで、ぐりぐりの丸い目と視線が合った。

「…リエちゃん。こんばんは」

彼女はリエ。僕がつい最近呼ばれた「ポップンパーティ」なるお祭り?の参加者の一人らしい。それも一番初めからの。

知り合いも居ないパーティで、初めて話しかけて来たのが彼女だった。
『綺麗な歌だね』
とか、
『前のパーティでやった曲にちょっと似てるなぁ』
とか色々と。
元気が良くって明るくて、くるくる表情が変わる女の子だった。

「今日もまた、空を見てたの?」

彼女はニッコリ笑ってから僕の隣に座った。いつからか、僕の隣はリエちゃんの指定席の様になっていた。

「うん。今日は一段と星が綺麗だったから」
「そうだね。凄いキラキラしてる…」

星空を見上げる彼女の顔は溢れんばかりの笑顔で、僕も思わず頬が綻んだ。自分が好きなものに共感して貰えたのが嬉しかったし。

「それはそうとリエちゃん、こんな遅い時間なのに大丈夫?」

星が見えるくらいには遅い時間なのだ。僕は色々と不安だったから、隣に座る彼女にそう尋ねてみる。
そうしたら慌ててポケットから携帯を出して、今の時間を見てリエちゃんは丸い目をさらに丸くした。

「あ!本当だ、どうしよう、明日学校起きれないかも…」

そこから彼女はばたばたと慌ただしく立ち上がり、お尻を払ってから僕に言う。

「ごめんねお兄さん、もう帰らなきゃ。またね」
「あ、待って!」
「え?」

僕は踵を返そうとした彼女を呼び止めた。考えてそうした訳じゃない。気が付いたら体が勝手に呼び止めていた。


「…もう遅いから、送って行くよ」

言ってから僕は一気に後悔した。
送って行くとか言ったって、僕はリエちゃんの家が何処にあるかもまるで何も知らないのだ。最終的に僕が帰れなくなるかもしれないってのに送って行くなんて発言、考えが無いにも程がある。
けれども、だからと言ってこんな遅い時間に女の子をひとりで野に放つ様なマネは誉められたものでは無い。気を付けてね、なんて言ってこのまま星を見続けるってのはあまりに薄情過ぎるじゃないか。

というか…そもそも返事が無い。嫌がられてるんじゃ、と不安が生まれてきた。
沈黙が気まずくて、足元に目をやった瞬間だった。

「…迷惑じゃない?」

ちょっと困った表情をしてリエちゃんは僕を見ていた。手を胸のところでぎゅって握りながら、不安そうに尋ねてきた。

「まさか。リエちゃんこそ、僕なんかと歩くのは嫌じゃない?」
「全然!それこそまさかだよ。じゃあ…お願いしちゃおうかな」

にっこり笑った彼女に、僕は目を奪われた。胸がドキリとした様な気がした。

「一緒に帰ろう、お兄さん」

胸がドキドキするのはきっと気のせいだ。僕に妹が居たらきっとこんな感じなんだ。
そんな風に言い聞かせて──いや、考えて、僕は柔らかく笑った。

「神さまってば酷いんだよ?9回目の時にね…」
「でね、そのときさなえちゃんがね…」
「ベルちゃんが…」


「へ…へぇ……」

歩きながら次々に変わる話題に僕はすっかり翻弄されていた。リエちゃんはいろんな人とかなり親好が深いんだな、と思う。
今話題に出た人で顔と名前が一致するのなんてMZDさんにミミニャミさんぐらいだよ。

「…なんだかごめんね、リエばっかり喋ってて。つまんないよね」
「え?」

リエちゃんは照れ臭そうな表情をしながら、少しだけ頬を赤らめて続ける。

「最近ずっと、次にお兄さんに会ったら何話そうかなって考えてて…だから、なんだか止まらなくって」

自分の指を絡ませながら、あはは…と乾いた笑い声をあげるリエちゃん。
ぴた、と僕の足が止まった。それから一瞬遅れてリエちゃんの動きも止まる。

「あ、違うの違うの違うの!そういう意味じゃなくて〜!」

僕より先に進んでしまった彼女が慌てて戻って来て、僕の服をつかんで前後に激しくシェイクのちシェイク。

「待っ、て!リエちゃ、ストッ…」

酔う酔う吐く吐く首締まる!
僕はギブアップの念を込めて首を横に振る。そしてその揺れで更に吐気を増した。馬鹿だ僕。

「あ、ごめんなさいっ」

ぱっと手が離れた。僕は肩で息を大きく吸い込んで、荒げていた呼吸を整える。

「…リエ、ちゃん」
「な、なに?」


そういう意味じゃなくて、って、本当に違うのか?
そういう意味がどういう意味か、期待しても良いんだろうか。

妹みたいに思ってた筈だろ、って言ってる僕も居たけど、本当に妹みたいに思ってたんならこんな気持ちにはならないだろう。なったとしたら、僕は重度のキてる人だ。


「…リエちゃんにとって僕は、ただのお兄さんなの?」
「……え?」

僕は、この質問に対して否定の言葉を期待してる。ただの兄気取りならこんな気持ちには絶対ならないだろう。
同じ様な考えを何回も反復してひとつひとつ足場を固めて、僕は自分の気持ちをまとめていった。

「僕は違うよ、僕はリエちゃんの事、ただの妹だとは思えないんだ」

道のど真ん中でこんな事を言うのは相当恥ずかしい事だな、と妙に冷静な思考が働いている中で、不安で不安で仕方ない余裕のない僕が居る。

「だから、その…」
「お兄さん」

リエちゃんが僕に背を向けたまま空を見上げる。
僕は思わず口篭って、言おうとした言葉を飲み込んだ。

「リエね、朝の爽やかなのも、昼間の鮮やかなのも、今みたいに星がキラキラ輝いてるのも大好きなんだ」


「─…空が、大好きなの」

振り返った彼女はほんのりと頬を染めていて、柔らかく笑うその表情を見ていたら何も言えなくなってしまった。


「早く帰ろう、ソラさん」

伸ばされた手を躊躇うことなく僕は掴んだ。
微笑みを返して。




【終わり】

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