六×ムラサキ


ちり――ん………
縁側の軒先に吊るした南部鉄器の風鈴が、涼やかな音を立てている。
縁側の外は、芝生の敷き詰められた静かな庭と、池に鹿威しの備わった和風の庭園。
空を見れば、雲ひとつ無い美しい闇が空を覆いつくし、月が南の空に煌々と輝いている。
遠くの山々は漆黒に彩られ、静かな空気を創り出している。
東京を遠く離れた避暑地は、それでも夏の色を消すことは無く、昼間の灼熱を残していた。

「せいっ!はっ!おぅりゃあ!!」
男の甲高い掛け声と、木刀が空を切り裂く音が、庭に響き渡る。
木刀を一振りするたびに、引き締まった精悍な身体から汗がパッと飛び散る。
青く逆立てた髪は、どんな激しい動きを取ろうとも、決して乱れることは無い。
研ぎ澄まされた切れ長の赤い瞳は、さながら獲物を狙う猛獣のよう。
彼の名は六。
数百年の昔より時代を超えてやってきた、憂国の侍。

「よくもまぁ剣の稽古なんざ出来るねぇ。夜になったとはいえ、蒸し暑くって仕方ないじゃないか……」
眉間に皺を寄せながら、縁側に座っている女が呟いた。
暑くて仕方が無い……といった様子で、浴衣をだらしなく着て適当に帯を締めている。
衿は広く開け放たれていて、今にも豊かな胸がこぼれそうになっている。
片手に団扇を持ち、もう片手には煙管を持っている。
その傍らには煙草盆と蚊遣りが置かれ、静かに煙をくゆらせている。
彼女の名はムラサキ。
新宿歌舞伎町あたりで名を馳せる、ロッキン芸妓の歌姫。

「そりゃ姐さんよ、この暑い時期に鍛錬を行ってこそ、鋼の心と身体が手に入るってェもんだろ。
 それによ、『心頭滅却すれば火もまた涼し』っていうだろ?」
手を止めて振り向き、六が嬉しそうに笑って自信満々な様子で答えた。
「はぁ……、全く、考えられないねぇ」
ムラサキが嘆息しながら呟く。
もとよりこの地へは避暑のためにやってきたのに、六は剣の修行ばかり行っている。
近隣の観光地へ足を向ける気もない。川なりプールなり、遊びに行くこともない。
というより、六にはそういった習慣がない。

MZDの気まぐれと悪戯により、六はこの世界へ数百年の時を超えてやってきた。
「悪いんだけどさ、しばらくお前が面倒見てくんね?
 まー、お前の好きな時代からやってきてんだ。話は合うと思うんだよなー」
MZDはヘラヘラ笑いながらそう言って、ムラサキに六を紹介した。
最初は、古い日本の文化や情緒は自分も好きだから……と六の世話を引き受けたムラサキではあったが、
いざ一緒に住み始めてからというもの、何から何まで大きな隔たりがあることを実感せずにはいられなかった。
洋服を決して着ようともしないし、ひたすらにストイックで、遊びを全く知らない堅物。
『煩悩を起こされるのは嫌いだ』と言い、ゲームもスポーツもやらない。サイコロや花札にすら触れない。
酒を呑むぐらいの娯楽は持っていたが、日本酒と焼酎以外のものは絶対口にしない。
「はン、毛唐のモノなんぞ見るのもはばかられらァ」
そういって背中を向けることがしょっちゅうであった。

自分の意にそぐわない男はバッサバッサと切り捨てる、それがムラサキの人付き合いの常である。
故に、いらぬ誤解や憎悪を男に抱かれることも多々あったが、
「これがアタシの性分なんだ、嫌なら最初から好きになんかならない方がいいって事だよ」
と鼻で笑い、取り合おうともしない。
しかし六に関しては、切り捨てることがどうしてもできなかった。

その理由の一つめは、仕事に向かうときには彼は優秀なボディーガードであったから。
夕暮れに仕事に向かう準備を始めれば、
「あン?こんなお天道様が暮れてから仕事だってかい。お前さん夜鷹でもやってんのかい?
 え、違う?歌唄いをやってるって?馬鹿言うなぃ。夜の仕事なんざ物騒でいけねェ。
 世話になってる礼もしなくちゃいけねェしよ、俺がお前ェを守ってやらァな。
 何、刀ブン回したりゃしねェよ。この世界じゃ捕まるんだろ?」
そう言って、木刀を袋に包んで後ろを付いてきた。
実際、夜の街は危ない種類の人間が多い。ムラサキ自身、何度も襲われそうになった事があった。
ましてや彼女はクラブの有名な歌姫。ストーカーや押しかけファンが迫ってくることも多々あった。
しかし、六が傍に就くようになってから、そういった輩が来ることはピタリと止んだ。
凶悪な目つきの男が、刀のような長い棒を持って傍に立っていれば、まず大抵の男は逃げ出す。
恐いもの知らずの男が近づいてくれば、取り出した木刀で一刀両断。
ステージに立っている間は、控え室で一人静かに座禅を組んでいるか酒を呑んでいる。
無駄口は一切叩かないし、他の歌姫とは口もきかない。
全く、役に立つ便利なボディーガードであった。

そして、二つめは……

「九百九十七!九百九十八!九百九十九!……千ッ!!」
いつしか素振りの稽古に切り替えていた六が、木刀を振る回数を数えていた。
1000に到達した所で、彼は深く深呼吸して木刀を腰に納めた。
「っし、今夜の稽古は終わり……。っと、ありゃ……、姐さんずっと見てたのかい?」
彼は手拭で汗を拭きながら縁側に戻ってきて、そこに座っているムラサキにそう尋ねた。
「そうだよ、見てちゃいけなかったかい?」
煙を吐きながら、ムラサキが答える。心なしか、不機嫌な表情にも見える。
「いや、いけねェって訳じゃねえけどよ、姐さんいつも俺のする事『つまらない』って言ってッからさ……」
頭を掻きながら、六が申し訳なさそうに呟いた。
「……アンタが遊んでくれないからじゃないか」
ぷい、とそっぽを向いて、ムラサキが不機嫌そうに呟く。
「いや、だってよ、日々の鍛錬が無きゃ、姐さんを守ることだって出来なくなるしよ……」
だんだん、六の表情がしどろもどろになってくる。
「アタシはねぇ、ぐだぐだ言い訳するような男は嫌いだよ!」
ムラサキが吃と厳しい顔をして振り向き、はっきりと宣告する。
こう強く言い切られてしまうと、六は弱い。いよいよ小さくなって、
「……すまねえ」
と呟き、頭を垂れてしまった。
「でもねぇ……、アタシのいう事をちゃんと聞いてくれる男は、嫌いじゃないよ?」
不意にムラサキはニンマリ笑顔を浮かべながらそう言い、煙管を煙草盆に置いた。
そして立ち上がり、六に手を伸ばして抱きついた。

ムラサキは六の胸板にしなだれかかり、見上げてうっとりした目を向ける。
「お、おい……お前ェ何考えてんだァ?」
六が狼狽しながら尋ねると、
「おや、ずいぶんと連れない事をお言いだね、アンタはさ……。
 女の方からこうして来りゃ、何を考えてるのか、すぐに分かりそうなモノじゃないかい?」
クスクスと不敵な笑みを浮かべながら、ムラサキが答える。
気がつけば彼女はすでに帯留めを外し、絹の擦れる美しい音を立てて、帯を解いていた。
「でっ、でもよ……ここは縁側だろ!?外から誰か覗きゃ……」
「しないよ。もうお天道様も西の空に帰っちまったしねぇ。
 それとも……人に裸を見られて恥ずかしいかい?そんな、子供じゃあるまいし……」
あっさりと答えながら、ハラリとその場に浴衣を脱ぎ捨てる。
月の光を受け、ムラサキの裸体は妖しく鈍い光を放っていた。
「見たいなんて酔狂な奴が居りゃあさ、見せてやればいいんだよ……」
うっとりと囁くように呟いて、血の滴りそうに紅い舌を出し、六の胸板に舌を這わせた。
粘るように這いずる舌の動きを受け、六はその場に固まってしまう。
「あっ……ぐ、姐さ…んっ……」
擽ったさからか気持ちよさからかは分からないが、六の声はかすかに震えている。
「いけねェや……、俺ァ、汗臭いからよ……」
震える手で何とかムラサキの体を引き剥がし、それだけ呟いた。
「いいんだよ……この方が。男の匂いが、こうして全身から漂ってくるのが……アタシは好きなんだよ……」
六の瞳をうっとりとした瞳で見つめながら、ムラサキが呟く。

「あぁ……、この頭ん中灼きつくすような汗の匂い……たまんないよ……」
そう言って、再びムラサキは抱きついた。
そして今度は六の帯留めに手を掛け、ゆっくりとそれを解いた。
汗に濡れた綿の帯は引っかかりながらも緩められ、ハラリと地面に落とす。
褌一丁になった六の身体は、頭から水を被ったようにビッショリ汗に濡れていた。
「姐さんッ……、俺ァ、煩悩に囚われるのは嫌なんだって、何度も……」
眉間に皺を寄せながら、六が苦しげに呟く。しかしムラサキは、
「旦那……。苦しんで困ってる女一人どうにか出来ないで、それでも男かい?」
と一言吐き捨て、首筋に舌を這わせた。
ぬろぬろと唾液を塗りたくるように、舌が喉仏や鎖骨を這いずる。
そのままムラサキの舌は上へ上へと登っていって、六の顎から唇をねっとりと舐め回す。
「く……ッ、ええい、ままよッ!」
覚悟を決めたように、六はムラサキの頭を掴んで唇を重ねた。
「ん……、んん、ちゅ、ぴちゃ……」
笑みを浮かべながら、ムラサキが重なった唇から舌をぬるりと滑り込ませた。
それに対して、六の舌は無意識のうちに呼応してくる。
重なった唇の間から、舌と唾液の絡まる音が聞こえてくる。
ねっとりと互いに舌を絡めあった後、ムラサキのほうからゆっくりと唇を離した。
「あぁ……、この唾の味、匂い、舌の気持ちよさ……
 これが全部、アタシ一人のものだなんて、贅沢すぎるよ……」
再び胸板にすがりつきながら、ムラサキは嬉しそうに呟いた。

「ふふっ、でも……誰にも渡しゃしないからね?アンタはアタシだけのもの……」
うっとりとした目を向けながら、ムラサキは六の股間をまさぐった。
「おや、もう……こんなになってるのかい?全く、立派な刀だこと……」
静かに笑いながら、ムラサキは六の褌の紐を解いた。
ハラリと褌がその場に落ちて、立派にそそり立つ六の逸物が露わになった。
一方の六は、
「姐さん…いけねえ人だ……男を誘うなんてよ。女の嗜みってェモノは、持ち合わせてないのかい?」
と呟きながら手を背中の方に回し、お尻をむんずと掴み、ぐにぐに揉みまわす。
「ふん……、何とでも言うがいいさ。自分の気持ちに嘘を吐くのは嫌いなんだ…よっ……」
薄笑いを浮かべたムラサキの表情から、笑みが薄れた。
そして、官能に浸る淫靡な表情へと移り変わる。
いつの間にやら六の手は、臀部の割れ目から深くに侵入し、秘裂を撫で回していた。
六に触れられることによって、溢れてくる淫蜜は秘所を濡らし、指に絡みつき、太股に垂れている。
「あっ……、は、ぁ……」
歌姫の低く落ち着いた声は、押し寄せる快楽にじわり、じわり、と高まっていく。
「ゆ、指ぃ……入れておくれよ……。アンタの指で、アタシの貝の口、塞いでおくれ……」
逸物をゆっくり扱きながら、ムラサキは切なげに囁く。
「んじゃ、あっち……移るかい?」
六は庭の芝生に目をやり、笑みを浮かべて言った。

六はこの時代に来るまでに、女性との経験が無かったわけではない。
だが、女を喜ばせるための行為、というのは経験が無かった。
彼にとってのまぐわいとは、遊女なり夜鷹なりを抱いて、自分の身のうちにある欲求を晴らす……
それだけの事でしかなかった。
そんな彼に、女の喜ばせ方や、より気持ちよく逝けるまぐわいを教えたのは、ほかでもないムラサキだった。

芝生に移動した二人は、互いに寄り添うようにその場に寝そべった。
「ったく、姐さん……本当、好きモノだねェ……」
六が苦笑しながらムラサキの上に覆いかぶさる。
「っは……、アンタだって、それに付き合ってくれてるじゃないのさ……」
肌と肌、汗と汗がくっつきあう感触を楽しみながら、ムラサキが毒づく。
「なァに言ってんだか。『苦しんで困ってる女一人どうにか出来ないで……』なんて
 言ってたのは、どこのご婦人様だァ?」
たわわに実った乳房を鷲掴みにしながら、六が皮肉たっぷりに笑って尋ねる。
「そりゃま…あ…んっ……」
ムラサキの顔から、余裕が消えた。胸を揉みしだかれ、切なげな嬌声をあげる。
六は調子に乗って、左右から胸を寄せ、押しつぶし、広げ、またまとめ、と手慣れた手付きを見せている。
続けて乳房に口付け、舌先で乳首を舐め、転がし、八重歯で軽く甘噛みする。
同時に手を下腹部へ伸ばし、先ほどに続いて秘裂をまさぐる。
「ほら……。姐さんの望みどおり、洪水になってる堤、塞いでやるよ……」
耳元に顔を寄せ、静かな声で囁き、秘唇に指をねじ込む。
「あうんっ…!」
ムラサキの身体に、一瞬だけ力が入り強張る。
しかし、すぐにそれは押し寄せる快楽に取って代わられた。

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