・ 密室


ボクは透明人間だ。
所詮人間なのだから、毎日風呂に入れとリーダーは口煩く言う。
人間なんて、汚いもの扱いだ。

「はぁ〜ぁ…、アッシュ君、結局今日は包帯巻いてくれないの?」
せかせかと家事に追われる褐色の後姿に、ボクは溜息を吐いた。
忙しくて無理なら無理って、はっきり言って欲しい。
中途半端な優しさが、ボクはすごく嫌いだ。

「そのうち巻いてあげるッスから!」

もうその台詞は聞き飽きた。
とっくに日付も変わって、朝を待つだけなのに…。

肩にコートを羽織り、ありったけの包帯を腕に抱え、ボクは自室へと向かう。
長い螺旋階段を降り、静かな地下の部屋。
ギャンブラーオタクのボクが目障りで、リーダーはボクをこの場所に住まわせるのだろう。

静かな静かなボクだけの空間。
ライブ会場のノイズも、ファンの缶切り声もしない。
冷たい沈黙の空間。

誰も入らないボクだけの部屋。

それでもボクの表情は穏やかだった。

重たいドアを開け、その場に包帯をぶちまける。
―――…ギイィィ…。
ドアを閉める音が響く部屋の中、一巻きの包帯を持ち上げる細い腕。
「…ゴメンね。包帯、巻いて欲しくて。」
――…それは言い訳。

薄暗い部屋の中、鉄格子越しに小さく頷く黒い影。
「――…パピルス」
ボクの呼びかけに、キミは綺麗な瞳を細めた。

ただ無駄に広い部屋には、小さなテーブルと、書棚と、
ぽっかりと空いた中心の空間を埋めるように置かれた、獣用の鉄格子。

書棚の中から分厚い辞書を取り出す。
一体なんの辞書なのか、ボクには関心がないけれど。
せめてもの使い道にと、中のページを丸く刳り貫き、しまい込んでおいたプラチナの鍵。
それを取り出すと、自分の背丈ほどの鉄格子に手をかけた。
「いま出してあげるからね。」
こんな冷たい鉄格子に閉じ込めたのはボクなのに、何を偉そうに。
自分に対して冷笑したくなる。
掌ほどの南京錠のロックを解除すると、ボクは鉄の扉を開けた。
素足のキミが歩みを進めるたび、ひたひたと音がする。
(キミは確かにここにいるんだ…幻なんかじゃない)
やがてボクの前に辿り着くと、キミは膝を着き、深々と頭を下げた。
「いいんだよパピ、キミは…そんなことしなくていい。」
石畳の上に座り、表情を隠すその姿に、ボクは首を振った。

ソファさえもないこの重たい空間。
その代わりに鉄格子を背凭れにしながら、ボンヤリと包帯を巻くキミの手先を眺める。
キミの手は指先などなくて、少し長めの掌があるだけだ。
でもボクには、それが酷く魅力的に思えた。
ボクの指先へと丁寧に包帯を巻きつける。
べつにグローブをはめてしまうから、隠れてしまう部分は手を抜いてもいいと言うのに…。
キミは決してそれをしようとしない。
大切なものを包み込むように、キミの手先がボクの身体を巡っていく。
なんだかとても心地いい。

――…キミはボクに無償の愛をくれる、唯一無二の存在。


キミはまるで聖母のようだ。
…大袈裟かもしれないけれど。
他の誰かのように、見返りを求めない、エゴを見せたりしない。
だからボクも、キミの前では汚らしい部分は見せたくないんだ。
キミがいつまでも、ボクを愛してくれるように。

腰元を通過し、内股へと辿り着く黒い影。
柔らかなその感触。
ボクはそれをただ素直な気持ちで受け止めていたいんだ。
素直な気持ちが、汚らわしい行為に直結してしまうなんて…イヤだ。
聖母マリアは、神聖だからこその存在なんだって誰かが言ってた。
だから…ボクはキミにそんな感情を抱いちゃいけないのに。

なのに。
…ボクは所詮、人間なんだ。

性(さが)の部分へと近付く白い包帯を…
「う…うわぁっ!」
きつく眼を瞑り、ボクはそれを跳ね除けた。

ハァハァと乱れる息。
―――…短いの沈黙の後…。
飛ばした包帯が壁に当たる音で、不意に我に返る。
俯いた顔を上げ、薄っすらと開く視線の先には、片手を押さえるキミの姿があった。
包帯をはたいた勢いで、キミのその手を傷めてしまったのだろう。
なんて酷いことをしちゃったんだろう…ボクは!
罪の意識に襲われ、心は酷く動揺する。
「あ…パピ…パピ…ッ」
迷子の子供のようにその名を呼び続けると、
肩を震わせ、その先へと両手を伸ばして。

突然の痛みと恐怖に動きを止めていたキミは、
ふと強張った表情を緩めると、細い腕を懸命に伸ばし、ボクを包み込もうとする。
「ゴメンね…ゴメンね…。」
ボクは未だに震える身体で、キミを抱き締めた。

――…ゴメンね。
太陽を慕うキミを、こんな暗がりに閉じ込めて。
でもどうしてもキミが欲しかったんだ。
こんな密室の中じゃ、息も詰まっちゃうよね。
もしキミのことがファンに知れたりでもしたら、キミはどうにかされてしまうかもしれない。
…そんなの、ボクには耐えられないから。

「…パピルス…?」
再び鉄格子へと身を倒すと、ボクは熱の篭った息を吐く。
性の部分に、甘い感触が与えられたから。
その手先で、先端をゆっくりゆっくりと撫でられる。
「そんな…ダメだよ…っ」
言葉ならいくらでも出てくる。
でもボクの性は、どんどんとその形を露にしていった。
「ボクがキミをそんな風に見てるだなんて…軽蔑しないのかい?」
ボクの言葉に、手を添えたまま背伸びをすると、キミは何度も首を振る。
…ウソだよ。キミはこんなボクを、内心蔑みの眼差しで見ているだろ?
ただボクが望むから、聖母のような慈愛でその行為に及んでいるだけで。

――…ダメだダメだ! キミを汚したくなんかない!

その瞬間、背伸びしたはずのキミの背が、ガクンと落ちる。
「あぁッ!」
思わず喘ぎを上げたボクの口許を、キミは驚いたように見ていた。
性の先端に添えたキミの手が、バランスを崩し、
性を包むそれを剥いてしまって…。
透明で、眼には見えないものの
あからさまに露骨な姿を表しただろう性に、キミは手を滑らせる。
性を包んでは…剥いて。
包んでは、剥いて。

どうしてボクが喜ぶことがわかるんだろう。
そんな歓喜の声を、ボクは上げてしまったのだろうか。
そしてキミは、ボクが喜ぶことを迷わず選んでくれているんだね。
「パピ…嬉しいよ。」
そう言ってキミの頬を撫でる。
キミは幸福そうに目を細め、そしてボクの性に頬擦りした。
ビクリと脈を打ち、透明な粘液をこぼす性。
キミの凛とした顔が、細い手先が、ボクの欲望で汚れてしまう。
それでもキミは、ボクの性を愛し続けた。

暗い暗い地下室で、震えるボクの背が当たり、鉄格子が軋む音を立てる。

「ダメだよ…これ以上は。ボク…最低なことをしそうだ。」
息も絶え絶えに訴える。
ボクの性が、濁った本性を吐き出す時も近い。
キミにそんな醜態は晒したくないのに、
皮肉なことに、心と身体は別の生き物だ。

キミは言葉を発しない。
その眼差しで、ボクのすべてを先読みしてしまう。
…その黒く細い腕で、白いシルクのワンピースを持ち上げて。
「…パ…ピ…。」
ボクは…情けなくも露にされた、小さな布を凝視した。
同布の細い紐で何とかその位置を保ち続けている、その白い布を。
言葉もなく、幾度も口を開閉させる。
ボクには心臓なんてあるかどうかも分からないのに、
それがやたらと憔悴しているような…。

…手の震えを懸命に堪えながら、結ばれた紐を解いていく。
支えをなくした紐は、小さな音を立てて石畳へと落下していった。
「パピルス…キミも感じてるの?」
中指の腹で、縦に割れた線をそっとなぞる。
奥から手前へと指先を泳がせ、線に緩く指を押し込み、また奥へと辿る。
ボクを確かに求めている、キミの温もりを確かめるように。
「…びしょ濡れだ。」
ヌルリとした蜜はいくらでも溢れ出し、ボクの掌にまで溜まってくる。
キミはボクの指の動きに合わせるように、静かに身を揺らした。
ワンピースの裾を両手で握り締め、羞恥を押し殺すように。
「そんなことまでしてくれるの…?」
大きな瞳は潤み、時折前屈みに肌を震わせる。
猥らな水音を溢しながら、キミは惜しげもなくボクに熱を伝える。

――…ボクが透明人間で
   キミは精霊で。
でもいまは、そんなのどうだっていい。
ボクはキミを求め、キミはボクを包み込む。

いまは、それだけでいいんだ。

キミは少し力の抜けた身体で、ボクの胸に倒れ込んだ。
キミの小さな身体が、ボクの腕の中で小さく上下する。
声はなくとも、息が弾んでいるように感じる。
「もうガマンできないよ…。」
ボクはキミを胸に抱いたまま、熱いその場所へとボクの性をあてがった。
胸に抱かれていたキミは背を正すと、自ら腰を埋めてくる。
「ひ…は…っ」
喘いだ声はボクのもの。
キミは心配そうにボクの頬を撫でながらも、愛することをやめない。
ゆっくりと、でも確かにボクの性はキミの熱に包まれていく。
少しずつ埋まっていくたびに、蜜がボクの性へと伝っていく。
ワンピースで、いまひとつになっている場所は見えないものの、
それが余計にボクの感情を駆り立てた。

キミのそれは、特に入り口がキツイ。
入っていくたびに締まるものだから、ボクはもうたまらなくて…。
キミはボクの性をすべて飲み込むと、大きく身体を仰け反り、全身を痙攣させる。
入り口だけの鋭い快感に何とか耐え切っていた性が、
全体を抱き締めるような突然のキツイ快感に、
あっけなく濁った欲望を吐き出してしまう。
「早…っ ボク…なんで…っ!」
キミの細い腰を掴みながら、奥へと欲望を送りつける。

それは、キミを欲するボクの本能であり、最大の愛情表現だ。

身体に溢れ返るボクの性を溢さないように、またキミの入り口が締まる。
ボクの性は再び脈を打ち、残りすべてのボクの分身を
キミの身体に植え付けようとしていた。

――――-―………・・
小さなキミを胸に抱いて、長い螺旋階段を上っていく。
「…太陽はもうすぐだからね。」
…キミは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ると、ボクはこのまま消えてもいいと思えるほど
幸福で満たされる。

テラスから朝陽が差し込む。
太陽は…もうすぐそこだ。

朝食の準備をしながら、慌しく動き回る褐色の影も、
それを真紅のイスに腰掛けながら待つ、銀の髪も、
ボクにはもう、どうでも良かった。

「…なんだその山戌は。私に黙って飼っていたのか。」
「どこで拾って来たんスか? ちゃんと餌上げないとダメッスよ?」

ボクとキミは…。
そう、少なくともボク達は幸せだった。

目指す金色の太陽まで…あと少し。

「一体どうする気なんスかねぇ…? 朝食もとらずに上へ上がっていって。」
「…知らぬわ。飼えぬ山戌を屋根から投げ捨てる気なのだろう。」



太陽を両手で仰ぐキミは、なんだか今までで一番綺麗だ。

キミは太陽から視線をボクに向けると、ゆっくりと頷いた。
…すべてを悟るように。

ボクのこの精一杯の愛を、キミは受け取ってくれるんだね。
それはボクを、愛しているからだと自惚れてもいいだろうか?

いつかキミと引き裂かれるくらいなら、この決断に後悔はない。

ボクは太陽なんかになれやしないから、せめてキミとひとつになりたいんだ。
太陽が大好きなキミと、太陽の下で…―

キミを愛したことが、なによりもの人間の証。
密室から逃げ出して、ほら
そこにはボク達の罪を消し去る、目映い太陽の光が…――――――



                     ・ 密室 =END=

トップへ

動画 アダルト動画 ライブチャット