カゲトラSS


長年続く戦の勝利を収めようと
雪達磨大将軍が17歳になる雪姫をさらったのはつい先日の事─
雪達磨大将軍が出した、雪姫解放の条件は次の通りだった。

『戦の負けを認め、国の領土、財産全てを放棄し、我の物とする事』

しかし、そのような条件に応じるわけもなく、殿は何とかして雪姫の救出せねば、と作戦を練っていた。
と、そこへ雪姫を救うべく、一人の武士が名乗りをあげた。


一歩足を踏み出すたびに、ザクリ、と砂を砕く音が響く。
いや、それは砂ではない。
真綿の如く柔らかで、飴細工の如く銀色に輝く雪だ。
わらじを履かずに自らの足で雪を溶かしながら、その道を歩むのは
身体全身に白銀の毛皮を身につけた一頭の虎―

隻眼の白虎と言われた武士 カゲトラであった

彼は他に名乗りをあげた武士たちを差し置いて、たった一人で雪姫の救出に向かうと宣言をしたのだ。
だが、他の武士たちも殿もそれを簡単に応じるはずもなく
渋い顔でうなるだけであった。
だがカゲトラの意志は強くせめて、岡っ引を一人連れて行ったらどうだ、と言う殿の提案にも首を横にふったのだ。

「申し訳ないが、姫君の救出は拙者一人に任せて欲しいのです」
「のぅ…しかしカゲトラ。この国の若武将のおぬしとは言え
たった一人で雪達磨大将軍の軍隊に立ち向かうとは…何故、それほどまで、こだわるのか?」

畳の上に座る殿を目前にし、床に膝をつけ頭を下げたままカゲトラは答えた。
「それは―雪達磨大将軍が拙者の宿敵だからです」

「忘れもできぬ、二年前の夏―あの時の戦の最中、我が軍は善戦の中におりました。
拙者は我が軍の勝利を確信しました。

だが―あの時、あの男…雪達磨大将軍が放った矢が…」

カゲトラは顔を上げるとその両手を顔へと寄せる。

「拙者の左目を打ったのです」

左目につけた眼帯を外すと、殿はぐっと息を呑んで彼の左目に釘付けになった。
カゲトラの鋭い獣の瞳は潰れ、縦に裂けたような傷が走っているのだ。
「深手を負った拙者はその場から動く事が出来ず
目の前で雪達磨大将軍を逃がしてしまったのです。
その時から拙者は決めたのです。 あの男を必ず討つ と」
眼帯を付け直し、カゲトラは再び顔を伏せた。
殿はと言うと、顎に生えたヒゲを弄りながら、うーむと唸った。
「しかし…今回はおぬし一人の問題でもなかろう」
「承知しております。姫君の救出が第一なのは存じております」
「…おぬし一人に任せ、もし雪姫を救えなかったらどうするのだ?」
「もちろん、その時には」
カゲトラは顔を上げると、凛とした表情で殿と視線を合わせ

「切腹いたしましょう。拙者の首を殿に捧げるのみ」

本気である事を伝えると、殿はようやくカゲトラに一人で出陣する事を許したのだった。
許しを得て、カゲトラは雪達磨大将軍の城へとすぐさま向かった。
だが敵陣は遠く、この雪の降る道を徒歩で進むのは相当な時間を要した。
食料と暖を取るための酒はとうに尽きてしまったが
途中出会った青髪の浪人の話を聞いたところ
ここから二里も無いところに団子屋があると知った。
ならばそこで食料と酒を買い求めよう。
カゲトラは雪を踏みしめる足を速めながら
その浪人が示した方向へと進むのだった。


雪で埋まった小川の近くにその団子屋はあった。
眠った桜の木が見下ろすその団子屋は
麻布の看板と外に置かれた赤い長椅子が無ければ普通の一軒家のように見えた。
カゲトラは引き戸に手をかけ、その団子屋へと足を踏み入れた。

「いらっしゃいませー」

客の気配に気がついた店員が、すぐさまとカゲトラへと近づいてきた。
パタパタと草鞋を鳴らし、手に盆を持ったキツネの少女だ。
頭部に生えた美しい毛並みの耳と、腰には鮮やかな布で飾った尾が見える。
カゲトラは座敷へと腰を下ろすと、出された茶を一口飲む。
「ご注文は何ですか?」
「あぁー…団子を二本。それと何でもいいから熱燗を。
あと、酒をこのひょうたんへ入れてくれ」
腰にかけたひょうたんをキツネの少女に渡し、カゲトラは言った。
「ひょうたんのお酒の種類は何にいたしますか?」
「焼酎」
「はい、少しお待ち下さい」
少女が鳴らす足音を聞きながら、カゲトラは窓から外の様子を眺めていた。
窓からは小川が見えるのだが、この時期は雪で埋まってしまい
小川特有のサラサラとした心地よい川の流れの音が聞こえない。
桜の木は春に備えて眠りについており、雪の布団を被っている。
ここは春になったらさぞかし美しい所なのだろう、とカゲトラは思った。
春になったら、一度訪れてみたいものだ…

瞳を細めながらそんな事を思っていたら、いつの間にか少女が
盆に熱燗と団子を乗せて戻ってきていた。
「お待たせしました、お団子二本と熱燗です。
熱燗は当店自慢の新作ですので、どうぞ」
卓の上に盆を乗せると、カゲトラはあぁ、とつぶやきながら
団子を一本、手に取った。そしてそれを口にしようと─

「…何だ?」
何故か少女が、自分を見つめているのに気がついた。
少女はウキウキとした表情で、カゲトラに話しかけた。
「えぇっと…お客さん、お侍様ですか?」
「あぁ。そうだが」
「やっぱり!立派な刀を持っているからそうだと思いました!」
カゲトラが腰に下げている刀を指差しながら、少女はパッと笑った。
「…しかし、今時侍など珍しいものではなかろう?」
「えぇ、ですけどお客さんみたいなカッコイイお侍様は珍しいですわ」
容姿を褒められた所為か、カゲトラはふふ、と笑うと団子を口にした。
「む…良い味だ」
「そうですか?わぁ嬉しい!!」
キャッキャと喜ぶ少女を眺め、ふと彼は彼女に誰かの面影を覚えたのを感じた。

「あ、早く飲まないと冷めちゃいますよ?」
少女がとっくりを持ち上げると、御猪口へと中身を注ぎカゲトラへと手渡す。
彼はそれを受け取ると、クイッと酒を口内へと注ぎ込んだ。
酒の熱が口内から胃、胃から全身へと伝わり冷めた身体が一気に温まる。
ふぅ、と大きく息をつき、御猪口を卓へ置く。
「…珍しい味だな」
「ええ!当店で作った手作りなんです」
「そう…か… …ん?」
笑った少女の顔がグラリと揺れた。

いや違う。
揺れたのは、カゲトラの視線であった。
酒の酔いが回ったらしく、カゲトラは右手で顔を押さえ小さく呻いた。
しかし、彼は疑問に感じた。
たった一口飲んだだけで酒に酔うなど…これはよほど強い酒なのか?
味は今まで飲んだものの何よりも甘く、到底強い酒とは思えない。

ぐわぁん

頭を後ろに引っ張られる感覚。
天地がひっくり返る瞬間を見たカゲトラは、そのまま座敷の上へと
仰向けに倒れこんでしまった。

「きゃぁぁ!お侍様!!」

赤くぼやけた視線の先には慌てふためく少女の姿がある。
その時、カゲトラは先ほど感じた面影が何なのかが分かった。

そうだ、この少女は

雪姫にどこか似ているのだ、と。

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