ヒグラシ×リサ


ここは東京の渋谷から横浜までを結ぶ鉄道が通る沿線地域。冬の到来が感じられる街の様子の中、
何かに悩み考え込む青年の姿があった。彼の名前はヒグラシ。
ミュージシャンを目指す若者だ。

話は10月の中旬頃にさかのぼる。

夏の終わりの時期にリサと出会い、それからいろいろとあったヒグラシ。
その後も毎週土曜日に2人は毎度会っていた。

ある日、普段はテレビをあまり見ないヒグラシが珍しく見ていると、どこかで聞き覚えのある声が
耳に入ってきた。どうやら新曲を発表したアイドル歌手の歌らしい。彼は気になって番組をそのまま
注意深く見続けてみる事にした。

「…そうなんですよ〜。でね、新曲発表することになりました!」

「では早速いってみましょう、リサ待望の新曲、”どうなっちゃったって”!」

ヒグラシは自分の目と耳を疑った。そこに映っているのはどう見てもあのリサである。
リサは自分の素性をヒグラシには話していなかったのでヒグラシは驚いた。

「はへぇ〜…リサちゃんが、まさかアイドルだったなんて…」

驚きながらも曲がかかったので聞き入った。歌詞を聞いているとまるで
自分に対して言っている事のように聞こえた。

「まさか、ねぇ…」

ヒグラシは少しひきつりながら苦笑いした。

「今度リサちゃんから聞いてみることにするか…」

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その翌週の土曜日…

「ねぇリサちゃん、聞きたいことがあるんですけど。」

リサは遊びにきていたヒグラシの家で唐突に質問を受けた。

「え?どしたの?」

「リサちゃんって、実はアイドルなんですよね?」

「あ、テレビ見たんだ。」

「どうして言ってくれなかったんですか?」

「別に言う必要も無いって思ったから。アタシがアイドルだからってヒグラシさんを好きなのには
何の関係も無いし。そんな事なんか気にしちゃダメだよっ。」

「でもそれじゃ僕がリサちゃんに対して釣り合いが取れてないんじゃないかって…」

「ねぇ、ヒグラシさん。」

リサはニコニコしながらヒグラシの顔をまじまじと見つめる。

「あの歌、聞いた?」

「あ、はい。聞きましたよ。」

「あれってさ、アタシの気持ちなんだよ。ヒグラシさんへのさ。」

「あ…」

「アタシはみんなからどう言われようと、どう思われようと、好きなものは好きなんだって。
自分に素直にいたいから、その気持ちぶつけたかったんだよ。」

「………聞いてて何となく分かっていました。僕なんかでよかったらその気持ち、
受け止めさせてください。」

「ほらァ、そうやって固く構えないでほしいなぁ。アタシは、自然なヒグラシさんの方がいい。」

「………。」

ヒグラシは少し考え込んだ。そしてこう言った。

「まだ先の話ですけど、今度のクリスマス、一緒にどこか出かけませんか?」

「もちろんよ。ヒグラシさんが言わなかったらアタシから誘おうと思ってたんだけど。
そう言えばヒグラシさんから誘いがあった試しって今まで無かったっけ。何か珍しいね。」

それはヒグラシが何かを言う前にリサが一方的に行動に移してるからでしょうが。

「僕はこれからしばらく仕事が入りまして、作曲の納入で忙しくなりそうなんです。と言っても
大きな仕事ってわけじゃありませんが、僕にとっては初めての依頼で、何としても頑張らなければ
ならないんです。しばらく会えなくなるかもしれませんが、12月の中頃には終わりそうです。」

「分かった。アタシもヒグラシさんの邪魔はしたくないから、無理は言わないよ。でもさ、メールとか
電話とかはなるべくなら今まで通りにお願いねっ。」

「ありがとう、リサちゃん…」

ヒグラシは自分に言い聞かせるように言った。

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そして1ヶ月半が過ぎ、12月の初め頃に差し掛かっていた。
ヒグラシは自分にとって初めての仕事を無事終わらせ、作品を納入し終えて一息ついていた。

「ふぅ…やれるだけのことはやった。そうだ、リサちゃんに連絡取ってみよう。」

RRRRR…

「あ、もしもし、ヒグラシさん?ひっさしぶり〜。どう?仕事終わったの?」

「えぇ、ここ3週間ほど根詰めたおかげで何とかできました。ごめんなさい、連絡も出さないで…」

「いいよっ。ヒグラシさんは一旦集中したらそうなるのはアタシだって分かってるし。
あ、そうそう。明日土曜日じゃん、ヒグラシさん家に行ってもいい?」

「あ、はい。リサちゃんがよければ…」

「じゃぁ明日行くからよろしくねっ!」

そうやって電話が切れた。

「リサちゃん…」

ヒグラシは不安があった。あれだけ、彼女は彼女なりに自分を想っていてくれていることを
分かっていながらそれに十分に応えていない自分に若干嫌気が差し、それがリサを
不快にしていないかと思ったからだ。

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その翌日…

ドンドン…

時計を見ると朝9時だった。突然ドアがノックされた音でヒグラシは目を覚ました。
半分寝ぼけながらも急いで着替えてドアに向かった。

「はいはい、今開けます…」

ガチャッとドアを開けたが誰もいない。不思議に思ったが誰も居ないものは居ないので
部屋に引き返した。部屋に戻るとリサが台所で朝食の仕度をしていた。

「おっはよっ♪」

「Σリサちゃん!いつの間に…しかもこんなに朝早く…」

「さっきノックしたけど返事なかったし、鍵開いてたからお邪魔しちゃった。てへっ。」

「Σてへっ、じゃないよ………まぁ、いいか…」

ちょっと驚きながらも自分の為にあれこれやってくれてるリサを見るとヒグラシは
妙に嬉しい気持ちになっていた。

(僕とはテンションが違うからズレてると思うところもあるけど、リサちゃんはリサちゃんなりに僕の
事を想ってくれてるんだな…)

ヒグラシはリサの住居不法侵入紛いの行為には目をつぶり、ありがたく朝食をいただく事にした。

「ご飯もう少しでできるよ。おみそ汁はネギとおトーフにしたよ。あとね、魚焼いてるから。」

台所が何だか異様ににぎやかな様子になっている事も特に気に留めずヒグラシは
料理を作るリサを幸せそうに眺めていた。

(いい子だなぁ…)

この幸せ者が。

(こうやって見てると、リサちゃんは僕の消極的な態度をそうそう不快に思っちゃいないのかな…?)

「はい、お待たせっ♪」

そしてできあがった朝食を差し出されたヒグラシはその異様な様子を見て絶句した。

「( ;゚д゚)ポカーン……………。」

ミンチ状になった豆腐といびつな形でランダムに切り刻まれたネギが入ったみそ汁、
そして黒焦げの魚。瞬時にヒグラシは気がついた。リサは料理が超下手なのだと。

(………ま、まぁ見た目は凄そうだけど味は大丈夫だよね…?)

「イタダキマス…。」

ヒグラシは必要以上に緊張してカタコトの日本語の発音で言った。

「まずはおみそ汁を…………………………うげ」

ヒグラシは込みあがってきた嗚咽を辛うじて押し殺した。

(何だ、この殺人的な塩辛さは…)

気を取り直して魚に手をつける。

「もぐもぐ……………ぅ」

魚と言うよりは消炭状態だった。粉っぽくてむせる。

「げふっ、げふっ、ご、ご飯もらおうっと…」

「おみおつけとかお魚とかちょっと塩辛かったかな?そう思ってご飯は甘くしといたよ〜♪」

リサは無邪気にニコニコとした笑顔で言う。

「Σぐは」

ご飯には砂糖が混ぜられていた。

15分後……

無事(?)リサの手料理を完食したヒグラシは一息ついた。

(…今度からリサちゃんが来ても料理は必ず僕が作ろう…)

「ご、ごちそうさまでした。リサちゃん、どうもありがとう。」

しかしながら料理の味はともかく、リサのまごころには心底感謝していた。

「ヒグラシさんが元気になってくれるならさ、アタシもできること何でもしちゃうから。
任しときなさいって♪」

リサはとびっきり明るい表情でヒグラシの肩をバンバンと叩く。

「何でも…ですか…」

ヒグラシは嬉しかった。自分の事をここまで想っていてくれる女性がいることに感謝した。

「何?どしたの?あ、ヒグラシさん、今エッチな事考えてたでしょ〜♪」

ニヤニヤした表情でリサが言う。まるで隙につけ入ったかのようにそれを見逃さない。

「え?い、いいいや、僕は別にそんなつもりは…」

「いいじゃん、久しぶりに会ったんだしぃ…ふふっ。」

甘い声でリサがヒグラシの耳元に囁きかける。それを聞いたヒグラシは
体に電流が走ったかのような感覚に襲われ、動けない。

「えへへ〜っ。脱がしちゃうよ〜♪」

「あっ…」

ヒグラシはリサにされるがままに脱がされ、ベッドに押し倒された。

「リサちゃん、ちょ…ちょっと…」

「ふふ…ヒグラシさんさ、もうすっかりアタシの虜だよね。やっぱ嬉しいんでしょ?こういうの。クスッ…」

まるで小悪魔と呼ぶに相応しいニヤついた笑顔でリサは押し倒したヒグラシの上に乗り、言い放つ。
反論もできないヒグラシは毎度の事ながらまったく抵抗できず一方的にヤられていた。



……

数時間後。

そんなわけでその日はその後適当に話をした程度で終わった。そしてリサが帰った後で呟いた。

「やっぱり、僕の意思もちゃんと示すべきだよね…今の状態が嫌ってわけじゃないけど、僕の想いが
伝わりきってるわけじゃないし…リサちゃんにばかり引っぱってもらってちゃね…」

一週間前…

「はぁ…」

ヒグラシは居酒屋でため息をついていた。

「どうしたらいいんだろう…」

店内はうるさい雰囲気でもなく、一人で何かを考え込むには丁度いい感じである。

「おっ、どうしたんです、ヒグラシ君。」

「あ、青木さん。どうもお久しぶりです。」

近所のテーマパーク”ヒゲランド”に勤める青木さんが店に入ってくるなりヒグラシの悩む姿を
見て話し掛ける。ヒグラシとはこの居酒屋で顔を合わせることが多い。

「実は僕、恋をしてまして…」

ヒグラシは酎ハイを一口飲んで話を続ける。

「僕も彼女もお互いに好きなんですけど、いつも僕は彼女に想いをちゃんと伝えきれてないんです。
彼女にばっかり引っぱってもらってばっかりで…僕の気持ちをはっきりと伝えたいんですが…」

青木はコップに入った日本酒をぐいっと飲んで言う。

「それはねヒグラシ君、やっぱり伝えたい気持ちは伝えるべきだよ。」

「でもどうやったら上手くいくか、僕には自信が無くて…」

「まぁ実は私もそういう状況なんだよ。あるガイドさんを好きになったんだが、なかなか上手くは
想いを伝えられなくってね。はぁ〜…」

別の客が来てヒグラシたちを見かけ挨拶してきた。

「おっ?ヒグラシ君に青木さん。2人とも居るなんて珍しいね。」

「あぁ、クモハさん、こんばんわ。」

ヒゲランドに勤める社員のクモハさんだった。2人とも居酒屋を通じて彼の事を知っている。

「よいしょっと。大将、ビールとつくね、それからねぎまください。」

「あいよっ。」

そして出されたビールを飲み、焼き鳥を食べながらクモハさんは2人の話を聞いていた。

「もぐもぐ…まぁ、青木さんの言う通りだよヒグラシ君。向こうがそう思っているんならそれに
応えなきゃ。君だってその子の事が好きなんだろう?」

「あ、はい。ただ、彼女は僕と違ってものすごく活発で、でも僕はそうじゃないですし、
だからなかなか言い出せないところもありまして…」

「でもさ、言いたい事ははっきり言わなきゃいけないよ、もぐもぐ…」

「そうですよね…」

ヒグラシは2人の話を聞いて少し胸のつかえが取れた気がした。

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そして今日…

PPPPP…

携帯電話が鳴った。

「はい、ヒグラシです。」

「おはよっ、リサだよ。」

「おはようございます。今日は以前に約束してた事ですけど…」

「クリスマスだから出かけよって話だよね。どこ行くの?」

「ありきたりですけど、遊園地とか…どうでしょう?」

「いいよっ!じゃ…」

二人は待ち合わせ場所・時間をやり取りし、電話を切って待ち合わせ場所に向かった。



「お待たせっ!」

3分ほど前に先に着いていたヒグラシの後にすぐリサが現れた。

「ここって、ヒゲランドじゃん。そう言えばアタシはまだここは来た事無かったんだっけ…」

「じゃ、行きますか。」

二人はまぁそれこそ典型的(古典的とも言う)なパターンでいろいろ遊園地内を回った。
リサに連れられて乗ったジェットコースターを降りてヒグラシが目を回し、リサに介抱
されていたのは言うまでも無い。無論、観覧車内でリサにキスされたのも同様に。

そして夕方前にヒグラシが唐突に言い出した。

「リサちゃん、ちょっと早いですけどこれから移動しませんか?」

「いいよっ。行きましょっ。」

リサは何となく行き先を察していたようだったのですぐOKの返事をした。



二人が着いた先は高層ビルの上の階に位置するちょっとこ洒落たレストランだった。
店の奥の方は一面がガラス張りになっていて、外にはビル街の夜景が見える。
ピアノの音が聞こえる。どうやら今日はニューヨークからピアニストが来て演奏しているらしい。

「わぁ〜夜景キレイだね。ヒグラシさんって結構ロマンチストなんだね、ふふっ。」

「僕流、ですけどね。こういうのは気障じゃないかと心配してたんですけどね…どうでしょう?」

「らしい、かな。アタシには無い、アタシとは違う、ヒグラシさんらしさが。」

夜景を眺めながら二人はのんびりしていた。しばらくしてヒグラシが何か言い出そうとしていた。

「あの、リサちゃん…」

「なぁに?改まっちゃって。」

「あ…その…………ごめんなさい、ちょっと席外します。」

ヒグラシは緊張のあまり、言いたい事も言い出せずに席を離れた。
心臓がドキドキしている音を自分でも感じ取れる。むしろ周囲に聞こえてないかとすら思った。

リサは一人テーブルで待ちながら何かを考えていた。

ヒグラシが深呼吸して気を落ち着かせようとしているとピアノの方から誰かが来た。サングラスを
つけている30代後半くらいの紳士風の男だ。男はヒグラシに話し掛けてきた。

「Hey, you... What's the matter? I seem you're worrying, but is it worries about love?」
(どうしたんだね…見たところ悩んでいるようだが、恋の悩みかね?)

「Ah, yes. In fact, I wanna tell my thought to her, but...」
(あぁ、はい。実は僕、彼女に自分の気持ちを伝えたいのですが…)

「Hmm, so, you can hardly do it, don't you?」
(ふむ、で、なかなか上手くできない、と?)

「Right.」
(そうです。)

「Well, I will teach means and the method which I say. At first, you see her with grasp to her
by your both hands.Even if you are becoming tense and trembling, she responds to the thing
which you surely want to tell. In fact, this is although it was that I gave my present wife
at the time of the year like you. Hahaha…
I also became it tense, and, so… it was in a state just like you at that time.」
(よし、私がいい方法を教えよう。まず君の両手で彼女の手を握って彼女を見る。
真剣な眼差しだと君が緊張して震えていても彼女はきっと君の伝えたい事を受け止めてくれる。
まぁ…実はこれは私が君くらいの年の頃に今の私の妻にやったことだったんだがね。ははは…
あの頃は私も緊張して、そう、丁度…君のようなものだったさ。)

「Thank you for kindness. Now I'll do it! Ah... what's your name ?」
(ご親切にありがとうございます。早速やってみます。あ、お名前は…?)

「I'm Green. I came from Manhattan, N.Y. last weekend. Good luck, guy!」
(私はグリーン。先週末ニューヨークのマンハッタンから来た。青年よ、幸運を祈る。)

そう言ってグリーンと名乗った紳士風の男はヒグラシを背に手を挙げながらピアノの方へ歩き去った。

「…よし、やってみよう。」

ヒグラシは元気づけられてリサの待つテーブルの方へ戻った。

「お待たせしました。」

「お待たせされました♪」

リサは明るい様子で冗談を飛ばした。無論、ヒグラシが緊張しているのを分かっての事である。

「あの、リサちゃん…」

「なぁに?」

ヒグラシはリサが何かを言い出そうとする前に両手でリサの手を握り、まじまじと見つめた。
その眼差しは真剣そのもので、リサはあえて何も言わなかった。ただリサも普段とは違い、
おちゃらけた様子をその明るい表情から抑えて、ただじっとヒグラシを見つめ返していた。

「夏の終わり頃でしたっけ。元々、妙なきっかけから僕達が知り合ったのは。僕はリサちゃんに
出会えて本当に幸せです。でもいつも僕は何事もあなたに引っ張ってもらってばかりでした。
好きだって言ったのもリサちゃんでしたし、僕が言えたのもすべてはリサちゃんのおかげでした。
だから、改めて…

僕がリサちゃんが好きだという想いを、僕から言わせてほしかったんです。」

「うん…」

リサはヒグラシを見つめ続けていた。ヒグラシは手先が少し武者震いを起こしていたが堪えて続けた。

「リサちゃん、僕はあなたが好きです。」

「ごめんね、ヒグラシさん…今までヒグラシさんの言いたかった事、アタシのせいで言わせなかった
みたいで。アタシも勿論、ヒグラシさんが好きだよ。でもヒグラシさん、こうやってアタシみたいに先に
物事言っちゃう人にはっきり物言えるようになってアタシうれしい…。最初の頃はホントにヒグラシさん、
言いたい事もはっきり言えなかったんだもん。うん、全然カッコよくなったよ。」

「ありがとう…」

「もうアタシから無理に引っ張ったりするのはやめるね。ヒグラシさんがはっきり物事言ってくれるんだから。
ヒグラシさんがこうしたい、って思うときはアタシも合わせるからさ、ねっ。」

二人は互いに少し照れながら手を離し、椅子に座った。

「Bravo!」

ピアノの方で見ていたグリーンが言った。ヒグラシはグリーンの方を見て頭を下げると、グリーンは
口元をニヤッとさせ、"Good!"の意味で親指を立てた。それからグリーンは静かに"Presto"を演奏し始めた。

「でも…その眼鏡取った方がカッコよくなるよ?」

「まぁこれは…そのうちにでも考えます。あ、初めて会ったあの時もこう言ってましたっけ。」

二人はすっかりさっきの緊張感も取れて、互いに少し頬を赤らめながら話をしている。

「あの〜、カクテルなどいかがでごわすか?」

気がついたら二人の横に文字通り、巨漢、と呼ぶにふさわしい男がテーブルの横に立っていた。
ウェイターかと思ったが、よく見るとバーテンだった。名札に「Vantain(ヴァンテーン)」と書かれてある。

「あ、じゃぁ僕はドライマティーニ…いや、ジントニックをお願いします。」

「アタシはブラッディメアリー(ウォッカとトマトジュース)を…」

「リサちゃん、未成年はお酒はダメですよ。」

「はーい。てへっ、やっぱダメか…じゃぁオレンジジュースお願いね。」

バーテンは大きな図体を激しいリズムで動かしながらカクテルを作っている。
冬にもかかわらず妙に汗かきなのが気になるが…

「どうぞでごわす。あ、そうそう、これはあちらの方からのおごりという事でお代はもう
頂いておりますから、結構でごわす。どうぞごゆっくりでごわす。」

そう言ってバーテンはグリーンの方に手を向け説明した。九州の人が聞いたら怒り出しそうな
胡散臭い鹿児島弁を話すバーテンはゆっくり巨体を揺さぶりながら戻っていった。

『乾杯!』

二人が同時に言い、あっという間にグラスを空にした。

ヒグラシは店を出る間際にグリーンにお礼を言ってから出た。

「…あ、雨だね。」

「しまった、傘持ってきてなかったんでした…でも小雨だから大丈夫でしょうかね。」

その後、二人がレストランを出た時には細かい雨が降っていた。まだ道路に水溜りはできていない。
降り始めだった。

「どうしましょう。」

「ここからヒグラシさんの家近かったし、走って行こっか。」

「そうですね。」

二人は走り出してヒグラシの家に着いた。二人とも少し濡れていたのでヒグラシはタオルを
持ってきて、頭を拭いた。リサは束ねた髪をほどいて拭いていた。ヒグラシは
「束ねて無くてもかわいいなぁ…」などと思ってリサを見ていた。

「クリスマスイヴなのに雨ってついてなかったね。ホワイトクリスマスだったらよかったのに。」

「天気ばかりはどうしようもありませんからね。あ、そうそう…今日はクリスマスイヴという事で…はい。」

ヒグラシは1枚のMDを差し出した。

「これは…?」

「仕事中に合間を縫って作った曲です。リサちゃんの為に。こんなプレゼントしか送れなくてごめんなさい。」

「アタシの為に…」

リサはポータブルMDを再生して曲を聴いた。

「circlet…?」

「僕にとってリサちゃんは天使のような人ですから…僕にはリサちゃんの頭の上に天使の輪が
あるように思えますから"circlet"と名付けてみました。ちょっと気障でしたでしょうか…」

「ううん、ありがとう。アタシの為に作ってくれたんだよね。うれしい…」

午後11時、二人はヒグラシの家で話し込んでいた。

「ねぇ、ヒグラシさん…」

リサがクスッと微笑んでヒグラシを見る。

「リサちゃん………今日はそういうのは無しにしましょう。それより僕はリサちゃんの事をもっと
知りたいんです。今日はリサちゃんと話をしたいんですけど、いいですか?」

「そうだね。そういやアタシ、ヒグラシさんの事ってあんまり知らなかったっけ。
アタシもヒグラシさんの事、もっともっと知りたいし、今日はそうしよっかな。とことん、ね。」

二人は寒さを凌ぐ為に一つしかない布団を二人で肩までかぶりながら座っていろいろ語り合った。
趣味とか特技とか、好きなもの、嫌いなもの、様々な事をいろいろな事を本音で延々話し続けた。
二人は楽しそうに互いを理解かり合い、ますます互いを好きになっていった。

二人が最後に時計を見た記憶があったのは午前5時だった。二人はいつの間にか座ったまま
肩を寄せ合い、すーすーと寝息を立て、微笑みながら寝ていた。

『ありがとう、これからもよろしくね…』

夢心地の中、二人は幸せそうな顔で寝息を立てていた。

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