かごめ×ロキ


私、かごめは、一応少女詩人として世間に認知されている。
望んでのことではない。いつの間にか……という感じだ。
昔の友人に、「あなたの言葉には力がある」と言われて書きはじめた。
そしたら、何故か売れた。
なので、実は自分でも何を書いているのかよくわかっていない。
力がある言葉って何だろう?
本当の所は、言われたから書いているだけで、そんなこと微塵もわかっちゃいない。

時折、「あなたの詩で泣きました」とか、「あなたの詩のお陰で生きる勇気が湧きました」とか、
そういう手紙をもらうことがある。
もっとストレートに、感動した、とだけ書いてくる手紙も。
本音を言うと、そういうこと書いてくる人を馬鹿なんじゃないか、と思ったりする。

あんたらは、本当に私の言葉で感動しているのか?
何もわかってない私の言葉にそんな力あるもんか。
私は言葉の詐欺師なんだ。
そんな私に騙されてるあんたらの心もきっと薄っぺらいんだろうね、なんて。


……ひねくれている、と自分でも思う。


私は、感動というものがどんなものか、わからない。

ある日。


街を散策しながら、道ゆく人の人生を勝手に想像する、といういささか高尚とも言い難い趣味に時間を費やしていた時。
(ちなみに、公には私は趣味がないことになっている。ホントはこんな感じ)

私は"彼女"に出会った。

彼女は一人で歌っていた。俗な言い方をすれば、"路上ライブ"って奴だろう。
けれど、私には、そんな言葉を当てはめてしまうのは違うように思われた。
大体が、見た目からしてもそうだ。
楽器もない、マイクもない、機材も何にもない。
場所だって、駅前とか、そういう人の集まる場所じゃない。
裏通りの、しかもレストランの残飯がうず高く積まれたゴミ捨て場の脇。
ぱっと見、ちょっとイッちゃってる人が、ただ喚いているように見えなくもない。
だが、それでも聴衆は集まっていた。
皆、心を奪われて立ち止まらざるをえない、という感じだった。
……私もそうだった。……生まれて初めて、何かに心奪われる、という経験をした。

何だ、これは。何なんだ?
歌詞も、メロディも、決して万人向けとは言いがたい。
闇とか、魔女とか、トカゲとか、変なフレーズばかりが耳につく。
なのに、底に流れる心根は、真っ直ぐだった。
それこそ、私のような無感動人間にもはっきりわかるくらいに。
真っ直ぐで、ひた向きで、誇り高い……。

私は、がん、と頭を殴られたような衝撃を受けた。
これが、ひねくれ者の私に突き付けられた現実だ。
彼女の真っ直ぐさを、私は直視することができない。
彼女の前で私は霞む。
私は、何てちっぽけで、無力で、ゴミみたいな生き方をしてるんだろう。


ただただ、羨ましく、妬ましく、そして悔しかった。

……いつの間にか、彼女の歌は終わっていた。
割れんばかりの拍手と、ブラボーの声。
その一つ一つに彼女はありがとう、と答えていたが、一通りの波が去ると、何事もなかったかのようにそそくさと立ち去ってしまった。
私は、辺りにいた人を捕まえて尋ねてみる。
「ねぇ、今の、なんて人?」
不躾な私の質問に、釣り竿(?)を提げたサンバイザーの男の子は一瞬戸惑ったようだったが、すぐにこころよく答えてくれた。

「んー、今のはね、ロキって娘だよ。突然街中で唄いだすんで有名なんだ。
歌う唄はスッゴクイイからさ、評判が評判を呼んで、結構人気あるみたいなんだけど、いかんせん何処に出没するかわからないでしょ?
だからみんななかなか出会えないでいるみたい。キミはラッキーだね」

「何処で会えるかわからないの?」
「そう。彼女にとっては、歌いたくなった瞬間がライブの始まりだから。どこでも構わず歌っちゃう。僕らは偶然出会えた時だけ、彼女の唄を聴けるって寸法」
それから最後に彼は、ホントに歌が好きなんだろうね、彼女、と付け加えた。
……そんなレアな娘だったのか。
と、すると、また会える可能性はないかもしれない。
私は、教えてくれた彼に対するお礼もそこそこに、急いで彼女――ロキを追いかけることにした。

まだあまり遠くへは行っていないはず、という半ば祈りのような気持ちを込めて、彼女の去って行った方向に足を向ける。
私は必死だった。
ここで彼女を捉えられるかが人生のターニングポイントだと、大げさな表現でなくそう思っていた。
だから、心なしか早足……いや、駆け足と言っていい程の速さで、私は彼女を探し、足を動かした。
私の目が捕らえている範囲の中には、ロキはもういない。
この先の道を曲がって行ってしまったのだろうか。
けれど、曲がり角にぶつかったからって悩んでいる余裕はない。
手がかりなんて何もないけれど、いずれにしろ先に進まないわけにはいかないのだ。
私は、勘だけを頼りにして左を選ぶ。

少しだけ人の多い通りに出た。
まだロキの姿は見えない。
――もしかして見失った?
一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消した。
弱気はダメだ。
信じるものが何もないという状況だからこそ、自分の信じた道を信じぬかなきゃダメなんだ。
人込みをかき分けるようにして、なおも私は走り続けた。
駆けて、駆けて、駆けて。

……息が切れるほど走ったのなんて、どれくらいぶりだろうか。
それでも彼女は見つからなくて、私は無意識に、


「ロキッ!」


名前を叫んでいた。


と。
不意にぽん、と肩に置かれる手。
「呼んだ?」

後ろを振り返った私の目の前で、面白げににやにや笑いを浮かべている少女。
紛れもなく、あの子だった。

「さっきからさ、何かすごく必死なおねーさんがいるなー、ってちょっと面白かったんだ。
だから、途中から後ろに回って見てたんだけど、突然名前を呼ぶじゃない? そこで、やっとアタシ目当てだったって気付いた」
間近で見たロキは、さっきよりもずっと幼く見えた。
多分、私より若い。
歌っていたときは、全然そんな感じはしなかった。
もっと、うんと歳をとって――喩えて言うなら、何百年も生きた魔法使いのように――見えた。
「そんだけ、トリップしちゃってるってことよ」

――!?
心を読まれた!?

「違うよー。おねーさん、そういう顔してたから。私に会いに来る人って、だいたいみんな同じ感想を持つみたい。見慣れちゃったよ」
「……え、ああ。そうよね。心を読むなんて、そんなばかばかしいこと、ないわよね……」
「でしょう?」
にかーっといたずらっ子のように笑うロキ。
表情から、相対している人の考えてることを読むなんて、それだけで十分凄いけれど。
「歌ってるときはね、アタシの体はアタシのじゃないんだ。何かこう、ばーっとして、くゎーってなって、イイ気持ちになっちゃってるからさ。年より老けて見えるみたいよ」
何言ってるのか良くわからないけれど、ニュアンスだけは伝わってきた。
彼女の歌を一度聴けば、そういう言葉に拠らない世界、というのも納得できる。
「歌うのって、楽しいよなー」

「……ねえ、ロキ?」
「んー?」
「どうやったら、そんな風に歌えるの? あなたは、歌ってるとき、何を考えてる?」
私は、さっきから聞きたくて仕方がなかったことを尋ねた。
ロキに見えて私に見えない世界というものの答えを、どうしても知りたかった。
それが、私の道しるべになってくれるだろう、とそう思ったのだ。
けれど、それに対するロキの答えは、まるで期待はずれもいいところだった。
「なんも考えてないけど?」
私は気を逸らされて愕然となる。
違う、それじゃダメなんだ。
私は、私にわかるようにしか物事を理解できない。
ロキの世界がうまく掴めないから、だから聞いたのに、それじゃ本末転倒。
「……何も考えてないっていうことはないでしょう? 歌ってる最中が駄目なら、その後は? 前は? どうやってあなたは歌う歌を作ってるの?」
「いや、それも特に何もないなー。強いて言うなら、『なんか降りてくる』って感じしかわかんない」
「嘘よ! それじゃ、まるで……」
不公平、という言葉が私の頭をよぎる。
私がこんなに考えてわからないことを、彼女は感覚だけで理解してる。
それを才能、というのかもしれないけれど、私には認められない。


認めたくない。

「違うんだな。おねーさん、考えちゃダメなんだよ。頭使わないからいいの」

まただ。
私は言葉にしてないのに、ロキは考えを見透かしてしまう。
「時として、コトバは邪魔になる。これ、アタシのポリシー」
「だったらっ……」
私はどうしたらいいのだ!?
そして、ロキはさらに続ける。
「おねーさん、すごく肩に力入ってるけどさ。たまにはリラックスしないと、動けなくなっちゃうよ」


……それが、とどめだった。
その一言をきっかけにして、私の中から湧きあがる、感情の渦。
求めた答えが得られない焦燥感と、自分には敵わない存在を目の前にした劣等感。

それから、
それから……
何より、アレだ。
ロキが私より『子ども』だということに対して。
私は『子ども』に心を見透かされている。
『子ども』に見下されているっ!

こういう気持ちを表現する、いい言葉があったような気がする。
ああ、そうだ。

『ムカつく』ッ!!

「……あんたに、私の、何がわかるのよ」
「え?」

言葉。これも言葉。
私はの『感情』はこれだけじゃ、どうやら片付かない。
だから。


「あんたに私の何がわかるっつーのよっ!!」


吐き出した感情の迸りとともに、私は、
ロキの頬に平手打ちを一発、ぶっ放していた。

「痛い……」

そりゃ、痛いだろう。かなりキレイに入ったから。

「いきなり、すごいことするね……」
頬を抑えて、呆然とするロキ。
「でも、今のおねーさんの顔は良かった」
「え?」
「びんた一発が、今のおねーさんのコトバの代わりでしょ? アタシが言いたかったのは、そういうことなんだけどな」
私ははっとする。
確かに、言われてみれば、私は。
「その、がーっていう感じ忘れちゃダメだよ。そーすれば、きっといつか、おねーさんもコトバのじゃない歌を歌えるようになるよ」
「そう……かしら」
「そうだよ。ニンゲンならみんな心のどっかにそういうの持ってるんだから」
「ありがと……。なんかスッキリしてきた気がするかも……」
「にはは。礼には及びませんよ」
そう言うと、ロキはまた悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ただ」
「まだ、何かあるの?」
「痛かったから、お返し」

ずごっ。

今度は私の顔に一発。
しかも、グーで。
不意を突かれた上にかなり強力なパンチで、私は1メートルばかり吹っ飛ばされた。
私は平手だったのに!

「ねえ、おねーさん、名前なんて言うの?」
「かごめ」
急に何だろう。
「かごめちゃんか」
……ちゃん付けだし。
「いーこと思いついちゃったのよ。もっと『コトバをなくす』方法」
「何?」
「これ」

むちゅ。

……。

――!?

唇を、
奪われた?

……。

「な、なななななな、何するの!?」
「えっちいこと」

私は思わず辺りを見回した。
……人が。見てる。
「人目が気になるなら、あっち行こうよ、かごめちゃん」
ロキは、指で路地裏の方を指した。
と、言うか、そういう問題ではない。
「な、な、な、何でいきなりそういう話になるのよ!」
「えー、かごめちゃんはえっちいことはお嫌いですか?」
「嫌いとか、そういうことでなくっ……」
経験がない、と言いそうになって口をつぐむ。
けれど、ロキはまたしても私の考えを看破してしまった。
「大丈夫だよ、初めての人にはやさしくするから」
「私たち、女の子同士っ……!」
「気にしないの」
ああぁ……。話が噛み合わない。
多分、貞操観念とか、私はそういう難しいことを言いたいんだと思う。
だけど、言わなきゃ、断らなきゃ、という思いと裏腹に、そういうことを言い出す意味がないような気もしてくる。
そうやって、思い悩む私を見て、ロキは言う。
「それとも、かごめちゃんはアタシのこと嫌い?」
そして、目付きは悪いけれど真っ直ぐな瞳で、私をじーっと見つめてくるのだった。

……もう、やめて欲しい。
……そんな目で見られたら。

ついさっき、あんなに小憎らしいと思っていたこの少女が、可愛く思えてきてしまう……。

私は、ふと、やっぱりロキは魔女なんじゃないかと思った。
人の感情を引き出す天才。
人の心を揺り動かす魔法使い。
はじめは『感動』を。次には『妬み』を。そして、今度は、『愛情』を。
私は、ほんのわずかの間に、こんなにもたくさんの眠っていた感情を引き出されてしまった。

でも、今はそんなことどうでもよくて。
ああ、もう。
この娘を、ぎゅっ、てしたい。
と。

「行こう」
私は、自分の顔がきっと真っ赤になっているであろうことを自覚しながら、ロキに手を引かれ、人のいない街の陰へと歩き出した。

……ちゅ。…ちゅぅっ……。
互いの唇を吸い合う水気の混じった音が、静かな路地裏にこだまする。
じつは、男女含めてこれが私のファーストキスなのだけれど、それは秘密。
きっとロキにはつつぬけだろうけど。
いいのだ。
ロキは、私よりも年下(多分)のくせにとても手馴れていて、私は身を任せるだけで、いい感じになってきてしまっているのだから。
「かごめちゃん、飲んで」
口移しで、ロキが私に唾液を送り込み、私がそれを飲み下す。
たったそれだけのことなのだけれど、私にはとても淫靡な行為に思えて、胸が高鳴る。
「ぷはっ」
長い長い時間が流れ、ようやくロキが唇を離した。
「どきどきしてるね」
ロキが私の胸に手を添えて言う。
「かごめちゃんの胸、コンパクトで可愛いよ」
そのまま彼女は、手のひらに力を入れ、きゅっ、と私の胸を揉みしだいた。
初めて触られるそこは、正直、まだ話に聞いていたような快感ではなく、「くすぐったさ」として刺激を認識した。
「くふっ、ロキ、くすぐったいってば」
「大丈夫。すぐ、『気持ちイイ』に変わるから」
くすくすと笑うロキ。
手のひらは、胸に添えられたまま、円を描くような運動を続けている。
「必ず、体の奥から湧きあがってくる衝動があるはず。恥ずかしがらず、その衝動に身を任せて」
舌を差し入れられ、口の中を舐りまわされる感触と、くるくると蠢く、胸の上を這う手のひらの感覚。
確かに、その二つが組み合わさったとき、私は溢れだす『何か』を感じていた。

そんな私のかすかな反応を感じ取ったのか、ロキは次の動きに移る。
唇は離さないまま、私のノースリーブのワンピースの袖口から、両手を差し入れた。
そして、服の中で私のブラジャーをめくりあげ、乳房をむき出しにする。
露出した肌にひやりとしたロキの手が触れ、ぞくりと背筋を電流のようなものが走った。
ロキは、直接肌と肌を密着させて私の乳房を撫で上げ、さらに、指先を滑らせて丘のてっぺんに佇む果実をくりくりと弄りまわす。
「きもちぃかったら、声出してもいいのよ」

……その言葉を聞いたとたん、私は突然、またかっとなった。
考えてみたらさっきから、ずーっと主導権を握っているのは彼女。私は翻弄されるばかり。
それが無性に悔しくなってきた。
何とかして、対等でありたい、とそういう気持ちが私の中で強くなっていく。
愛しさと裏返しの嫉妬心というか、私はロキに負けたくないと思っていた。
「……誰がっ……!」
だから、ここで声を上げてしまったら、負けになる。
そういう気がして、私は歯を食いしばって耐えた。
「やせ我慢は、カラダによくないよぉ」
そんな私の内心を察したやら、ロキの動きが複雑さを増した。
的確に、確実に、私の快感が高まるようにと掌と指が動く。
私は楽器をやってるわけじゃないから、実感としてではないのだけれど、これは「奏でる」という言葉が相応しいと思った。
でも、まだ、だ。
「……あんたの指技なんかで、感じてやったりしないわよっ!」
絶対、負けるものかっ!

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