ユーリ×ポエット


誰もが眠りについている深夜、今宵は満月が落ちてきそうなほど大きく見える。
月明かりの中、小高い丘の上にある、荘厳な古城に向かって懸命に羽ばたく姿があった。
それは鳥ではなく、大きな純白の翼を持った少女だった。
やがて少女は古城の最上部に位置するテラスに降り立ち、月光の中で翼をたたんだ。
よほど急いできたのであろうか、少女は息を切らせ、額には汗が光る。

「…ポエットか?」
テラスの奥、闇に満たされた広間から声が響く。
「ユーリ!」
少女は闇にむかって相手の名を呼ぶ。
そして、闇の奥から長身の男がテラスに姿を現し、不機嫌そうに言った。
「…もう…ここには来るなと言った筈だが?」
ポエットは少しうつむいて答えた。
「ご…ごめんなさい……でも…どうしても…逢いたかったの…」
ユーリは背を向けながら冷たく言った。
「…私のことは忘れろ…私とお前では住む世界が違う…理解するんだ…」
こう言われるだろうと予測はしていたが、やっぱり涙が出てきてしまった。
「…ユーリ!わたし…わたし忘れるなんてできない!だから…だから…っ」



初めて出逢った場所もこのテラスだった。
その頃、ポエットは一人前の天使になるための修行中だったが、修行の辛さについ逃げ出してしまった。
そしてこのテラスに行き着き、身を隠したのだ。
「はあっ…はあっ…ここまでくれば…」
「おい…娘…!」
ほっとひと息ついたが、背後からいきなり声をかけられポエットは飛び上がった。
「きゃあああぁぁっ!あんた誰っ!?」
そこには悲鳴を上げられ、困惑した表情のユーリが立っていた。
「…ここは私の城だが…貴様こそ誰だ…?」
「え…この城の…? ごめんなさい! わたしの名前はポエ…」きゅるるるるる
朝から何も食べていなかったので、不意におなかが鳴ってしまいポエットは真っ赤になった。

「わぁい!いただきまーす!」
そしてポエットは城に客人として迎えられ、ユーリと共に城に住む狼男のアッシュが作った夕食をみんなで楽しく食べた。
「おいしいッスか?たくさん食べていいッスよ!」
「うん!教会じゃこんなにおいしいごはん食べられないもん」
食事をしながら、教会での生活や天使の修行のこと、故郷のホワイトランドのことなどいろんな話をした。

ポエットは今までそんな話を誰にもしたことがなかったので胸がすっとした。
やがて、おなかが落ち着いたポエットにユーリは言った。
「逃げ出すことは誰にでもできる…だが、最後までやりとおすのは自分しかできない…わかるか?」
「そうっスよ!頑張れば夢は必ず叶うっス!」
食器を片付けていたアッシュもポエットを励ます。
「…ヒヒッ…その若さで人生投げるなんて早いんじゃなぁい?」
もう一人の城の住人、透明人間のスマイルの冗談でポエットに笑顔が戻った。
「…ありがとう…すごく元気でた!…また遊びに来てもいい?」
「別に構わないが…次からは玄関からたのむよ?」
ユーリは微笑みながら答えた。

そう、それからわたしは辛い修行から逃げなかった。
ママのような立派な大天使になるために…。
どんなにつらくてもユーリが励ましてくれる。
わたしが悪いとちゃんと叱ってくれる。
ユーリのようにきれいな声で歌いたい。
ユーリのように夜空を自由に飛びまわりたい。
ユーリのように……
やがて気づいた…わたしはユーリのことが大好き…
ユーリのそばにいつまでもいたい…

「…さっさと帰るんだな。ここは世界で一番おまえに相応しくない場所だ…」
ポエットが思い出から我に返るとユーリは城の奥へ消えようとしていた。
「ユーリッ!聞いて!わたし…あなたのこと…!」
振り向いたユーリはポエットに怒鳴りつけた。
「聞き分けのないっ!それから先は言うなっ!!」
初めて聞いたユーリの怒声にポエットはすくんだ。
「ユーリ…」
また背を向け去っていくユーリを見つめながらポエットは着ている服をゆっくりと脱ぎだした。
衣擦れの音でまたユーリは振り向く。
「……何をしている…?」
月明かりの中、ポエットは生まれたままの姿になった。
真っ白い羽で恥ずかしそうに胸の膨らみを隠す。
頬を赤く染めた表情はまだあどけないが、体はもう立派な女性に成長している。
ユーリはその美しさに心を奪われた。
「見て…ユーリ…あなたのおかげで…こんなに大きくなれたの…」

天使は心の成長で身体も成長する。
様々なことに出会い、乗り越え、くじけない心や慈しみ深い心、人を愛する心を得ることによって成長するのだ。
時々、ユーリの城へ遊びに行くようになってからポエットの成長は眼を見張るものがあった。
最初に出会った姿はまだ幼かった身体だったのだが、ほんの一年もたたずに人間でいう十代半ばぐらいにまで成長してしまった。
これにはポエットが住んでいた教会の司祭たちもおかしいと感じ、そして見習い司祭であるペンギンのぺぺがこっそりポエットの後をつけていった。

「ポエット様!すぐにお離れください!そいつは神を冒とくする吸血鬼です!」
「ぺぺ!どうしてここに?」
震えながらぺぺは十字架をかざし、勇気を振り絞って言った。
「彼らは闇の住人…我々神に仕える光の者とは決して相容れない存在です…!」
「こらっ!ペンギン小僧!いいかげんにするッス!」
アッシュがぺぺの襟首をつまみ上げ、鋭く長い牙を見せつけた。
「…ぶぶぶぶ無礼者!ポエット様は将来、大天使様になる方だぞ!お前たちのような怪物が同等につきあえることはないんだ!」
ぺぺは精一杯、司祭の威厳を保とうと努力しながら叫んだ。
「…ふん…どうせ教会じゃポエ様ポエ様って腫れ物みたいに扱って、お勉強を詰め込んでるんだろうね…ヒヒヒッ…どっちが無礼者だか…」
スマイルが皮肉めいた台詞をぺぺに言った。

「だだだだだまれ!汚らわしい闇の者どもめっ!」
「やめてっ!ぺぺ!ユーリたちは汚らわしくなんかないわっ!友達よ!」
ポエットがヒステリックに叫んだ。

そして、今まで黙って成り行きを見守っていたユーリが突然口を開いた。
「帰れ、ポエット」
信じられない一言で場が静まり返った。
「…うそでしょ…?…ユーリ…」
頭の奥で鐘が鳴り響くような感覚に陥りながらポエットは聞き返した。
「聞こえなかったのか?ここはお前のいる場所じゃない…二度と来るな…」
ユーリは踵をかえし、その場から立ち去った。
「…ユーリ……そんな…」
ポエットは放心したように床に座り込んだ。
「ちょっ…ちょっとユーリ!そりゃないッスよ!!」
アッシュはペペを放り投げ、ユーリの背中に叫んだ。
そんなアッシュをスマイルが制する。
「……アッシュ…ユーリの気持ち…酌んでやりな…ヒヒッ…」
「ぜんっぜんわかんねッス!なんで…あんな…」
「ヒヒッ…いつまでもここに居ちゃ、えらい天使さんになれないんだよ…な?」
アッシュは複雑ながらユーリの気持ちを理解し、壁を力一杯殴りつけた。
「…ちきしょう…ッス…」

そしてポエットはぺぺの馬車に乗せられて城を後にすることになった。
ポエットは馬車の中でずっと泣き続け、見送ったアッシュとスマイルの顔は涙で見られなかった。
そして馬車が走り出し、城がだんだんと小さくなっていく。
ポエットが振り向き、城を見上げると一匹の大きな蝙蝠が夜空をゆっくりと旋回していた。
「ユーリ…ユーリ……ユーリィーッ!!」
ポエットは馬車から身を乗り出して声の限り叫んだ。


それから一年がたち、こうして再びユーリの前に突然ポエットが現れた。
もちろんユーリもポエットのことを一日たりとも忘れたことはなかった。
一年前にポエットを突き放した時、自分にポエットへの特別な感情が芽生えていたことに気づいていた。

目の前ですべてを脱ぎ捨てたポエットは、記憶の中の彼女よりもずっと成熟している。
「ポエット…服を着ろ…」
感情を押し殺した声でユーリは言った。
「…ユーリ…抱いてほしいの…」
ゆっくりとユーリに歩み寄るポエット。
「…女がそんなこと言うもんじゃない」
「ユーリが飽きるまで好きにしていいのよ…」
今、ユーリの目の前に、夢にまで見た愛しい人のカラダがある。
「……ポエット…」
「抱いてくれたら、もう二度とあなたの前に現れないわ…約束する」
ポエットはユーリの腕にすがりついた。
「…だが…」
ユーリの腕に熱くほてったポエットの胸が押し付けられる。
「抱いてくれなかったら…死んじゃうから…」
ポエットはユーリの胸に顔を埋め、少し泣いた。
ポエットの表情、眼差しにひとつの覚悟を感じた。
…彼女は本気だ…ただ寂しさを紛らわすために来たわけではない…
ユーリはそんなポエットが愛しくて狂おしくなった。

「…ポエット…」
ユーリはポエットの顔をやさしく持ち上げると、そっと唇を重ねた。
「…ん……っ」
ポエットは、ぎゅっとユーリの背中を抱きしめ、精一杯背伸びをしてユーリの唇に吸い付いた。
「…んぐ…んぐ…」
母親の母乳を飲む赤ん坊のようにユーリの唾液を吸う。
そしてユーリは唇を離すとポエットに微笑んだ。
ポエットは一年間ずっとその笑顔が見たかった。大きな瞳に涙が溢れる。
「…あ……うっ…う……ユーリィ…!」
吸血鬼は天使を抱きしめた。
「逢いたかったぞ、ポエット」
「ユーリ!…ユーリ…!……わたしも…!」
ユーリは漆黒のマントにポエットを包むと寝室へいざなった。

ユーリの寝室には、広いキングサイズのベッドが中心に据えてある。
吸血鬼といえど、ユーリは狭い棺桶で窮屈に眠ることを良しとしなかった。
ワインレッドベルベットのシーツの上にポエット抱え上げ、やさしく寝かせる。
シーツの上で彼女の羽の白さが光る。
「…ユーリ…はやく来て…」
服を脱ぐユーリにポエットは甘えるように手を差し出した。
その手をとって、裸になったユーリが覆いかぶさる。
ユーリの肌は透き通るように白く、冷たかった。
細身の長身だが、肉体は痩せぎすではなく、鞭のように引き締まっている。
二人は唇を重ね、お互いの舌が絡み合い、口の中を舐めあう。
「…んっ…はふぅ…んっ…くちゅくちゅ…」
離した二人の舌と舌のあいだに唾液が糸を引く。

「ねぇ…ユーリ…変なこと聞いてもいい?」
「なんだい?」
「ユーリはわたしの…血を吸いたいと思ったことある?」
「……さあ…どうだったかな?」
吸血鬼にとって吸血はセックスの一部を意味する。
「…ユーリが…望むなら…いいよ」
「いいのか?」

「うん……」
そう頷くとポエットは首すじをユーリに差し出したが、固く目を閉じ小刻みに震えていた。
それに構わず吸血鬼は天使の首すじに唇をつける。
「…あんっ……」
唇の冷たさで体がぴくんと動く。
そしてユーリは音を立ててポエットの首を吸い始めた。
ちゅっ…ぢゅぅ…ちゅるる…
「あぁん…ああっ!…やあぁ…あはぁ…っ!」
痛みが少し感じるくらいユーリは強く吸う。
ぢゅうぅぅっ…ちゅちゅっ…
ポエットはユーリの頭に抱きつくように身もだえした。
「あぁぁ…やぁぁ…ユー…リ…」

やがてユーリは口を拭いながら顔をあげた。
「……ふぅ」
ユーリの腕の中でポエットはまだ子犬のように震えている。
「はあ…はあ…ユーリ…いっぱい…吸った…?」
ユーリは無言で枕元にあった手鏡を渡した。
「…え?」
おそるおそるポエットは自分の首すじを映してみた。
映ったのは二つ開いた牙の跡…ではなく、小さなキスマークだった。
「…ユーリ…?」
大きな瞳をぱちぱちさせてユーリを見つめる。
ユーリは悪戯っぽくウインクをした。
「んもう!ユーリ!」
天使は少し頬を膨らませて吸血鬼に抱きつきながら、この幸せな時がいつまでも続いてほしい…と心から思った。

一年間もの間、離ればなれだった二人は今、愛を確かめあう。
その運命は既に、その日の朝に動き出していた。

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